68.砂漠は、熱い

「暑いな……」
「暑いわね……」
「暑いよぉ〜……」

弱音を吐いたのは、上からアスベル、シェリア、パスカルだ。
気候の穏やかなウィンドルで暮らしていた人にとって、砂漠の環境は当然厳しい。まだまだセイブル・イゾレの街の影すら見えないというのに既にぐったりとしている。戦闘にもキレがない。
代わりにソフィとマリクさんとわたしばかりが戦闘に参加しているくらいだ。わたしもまあつらいんだけど、思ったほどではない。異世界だからちょっと違うのかな。どちらかというと眩しくてよく前が見えなくて、いまいち狙いが定まらない。
その危なっかしさでもなんとかなっているのは、ひとえにソフィがとっても強くてすごいってことである。そんなグダグダな状況のわたしたちを見て、マリクさんはわざとらしくため息をついてみせた。

「お前ら少しだらしないぞ。少しはソフィを見習え」

呼ばれたソフィは余裕然とした表情で前を歩いている。
よく見れば少し疲れてはいるようだが、へばるほどではないらしい。
マリクさんといい凄いな。

「ソフィ、大丈夫なの〜?」
「うん。暑いけど平気」
「ひょっとしてソフィの体は冷たいのかなぁ? ねぇソフィ、触らせて〜」
「ダメ」

舞台が砂漠になっても、パスカルとソフィは変わらないらしい。
相変わらず可愛いなぁ、と心の中でだけ呟いておく。

「……あら? いつもならここでシオリが何か言うのに、おとなしいわね?」
「大丈夫か? なんだか歩くのも遅いみたいだが……」
「アスベルは視界に入っちゃだめ!」
「え、シオリ?」

思わず強い口調で叫んで、必死にアスベルから思い切り目をそらした。
あまりに勢い良く動かしたので少しだけ頭がクラクラしたけれど今は無視。それどころじゃないので目を閉じる。

「アスベルのその白さ、輝きまくって眩しいんだよ……そもそもずっと視界が、白い……」
「お、おい、本当に大丈夫か?」

アスベルは、白い。もう真っ白だ。真っ白の服はものすごく光を反射する。眩しい。さっきから眩しくて目が痛いな〜とか思っているのに、そこにこんな真っ白な人を目の前に置かれてみろ。無理。眩しい。めっちゃ目が痛くてさっきからずっと視線をそらしていたくらいだ。
さすがに倒れたり、なんてことはしないけれど。毎年経験していた夏の日本とも違うそれに、異世界パワーか知らないけれどまあ我慢できないこともない、と思える程度だけれど。でも、太陽の光の強さだけはどうにもできない。

「シオリ。手繋ごう」

短く言って、わたしの手をぎゅっと握ってきたのはソフィだ。眩しいから前がよく見えていなかったんだね、の言葉に、さすがに何度かわたしの輝術を避けた彼女はわたしの見えてなさっぷりがよくわかったらしい。
申し訳ない。でも、小さい手の感触は優しかったから、わたしは素直に頷いた。

「いいなぁ〜シオリ。ソフィ、アスベルが代わりに繋ぎたいらしいから、あたしと繋がない?」
「ぱ、パスカル? 何を……」
「パスカル。ダメ。アスベルはもう片方を繋げばいいんだよ」
「えぇ〜……」

どうやらわたしに手を差し伸べていてくれたらしいアスベルの手が行き場を失っていたことに、視線を向けられないどころか砂漠に映し出される濃い影を見るのもつらくなってきていたわたしは今気付いたのだけれど。みんなに丸見えだったアスベルの手へのフォローに、パスカルがおずおずと手を上げる。
でも自分がソフィに触りたいだけ、なんてことは、もっと周知の事実なので。当然のように断られてがっくりと肩を落としたパスカルに、ソフィは自分の胸に手を当てて、大切そうに言葉を紡いだ。

「シオリに触れてると、なんだかドキドキして、少しだけ素敵な気分になれるの。だから、ダメ」
「ど、ドキドキ……素敵な気分……?」

ぽつり、とソフィの言葉を繰り返した彼女は、それからすぐに悲鳴を上げた。
暑がってたくせに元気だ。
パスカルもシェリアも慌てた風にソフィに詰め寄り、マリクさんは楽しそうに笑いながら隣にいたアスベルの肩に手をおく。

「っくぁ〜盲点だった! 真のライバルはシオリだった〜!」
「ちょっちょっとソフィ、それはどういう事? まさかソフィ、あなた……!」
「と、とにかく! なるべく早くユ・リベルテに行こう。このままだとシオリが倒れそうだ」

シェリアの言葉を遮るように声を出したアスベルに、騒いでいた二人がしぶしぶといった様子で頷く。
ソフィの事となるとみんな面白いなぁ。
実際にソフィが男の子連れてきた時の事が見てみたい、なんて思ったところでもう本当に眩しくて、暑さもさすがに参ってきてしまって。わたしももうだめです、と後ろに引っ込んだせいで、結局マリクさんとソフィだけが戦う状況になってしまって、申し訳なかった。

「……みんなも暑いのに、ごめんね……うぅ……」