セイブル・イゾレの街は、中央に大きな建物がそびえ立っている。
影だけでそうだとわかるくらい印象的なそれに、だが感想を述べる余裕が無い。
「ここまではなんとか来れたね。ロックガガンが出るのはこの先だっけ?」
「……わたし、もう挫けそうだ……」
「大丈夫? シオリ」
「うん……」
もう目がつらいのはもちろんとして、現在限界突破して頭痛と吐き気も追加されていたところだ。日陰に入ってみんなで水分を取って、ついでにソフィに頭を撫でてもらいながら休むこと数分。
少しは落ち着いてきたところで、とりあえず街の人達に話を聞いてみようという話になった。
建物の場所まで行くと、何やらたくさんの声が聞こえてくる。どうやら一人の軍人に対して、民衆が集まって抗議しているようだ。
「ロックガガンを殺すな! あれは大昔から生き長らえている、学術的にも貴重な生物だぞ!」
「ロックガガン殺しちゃやだー!」
「我々はロックガガンを殺しにきたのではありません。来たのは調査の為です」
「だったらどうして軍が街道に展開しているんだ? そんなの必要ないじゃないか!」
「ロックガガンが暴れて国民の皆様に被害が及んだ際、迅速に救助活動を行う為です! ……ああもう、どこに行ったんだろ」
軍人の疲れたような声とは対照的に大きくなっていく人々の声に、パスカルはいつもとなんら変わりなく体を揺らした。
声も、何時も通り能天気だ。
「ロックガガン大人気だねー。これじゃ下手に手出しは出来ないね」
「やっぱりロックガガン可愛いのかなぁ……」
「シオリ、お前な……」
どうしても「ロックガガン可愛い説」を推したくて声を振り絞れば、アスベルにジトリと睨まれる。
そんなに睨まなくてもいいじゃないと笑って、大きく息を吐いた。
ああ、でもまだ気持ち悪いや。夏バテの症状が一気に来たって感じである。
「……でもこんだけ大人気なら、軍も大変そうだね」
「ロックガガン保護の声は日増しに高まってきている。しかし一方で、街道を通れなくて困っているからロックガガンを始末してくれという声もある。どちらも民衆の本音だ」
急にそう言いながら歩いてきた男性に、みんなキョトンとそちらに視線を向ける。
なかなか渋い声のその人は灰色がかった髪を一つにまとめていて、人の良さそうな顔をしている。
誰だかわからないその人は、そのまま話を続けた。
「いずれにせよ、この状況に具体的な対策をせず放置すれば、良くない結果しか生まないな」
「困ったな……急いでユ・リベルテに行かなくてはならないのに」
「首都方面に急ぐのか? それは生憎だな……すぐにはこの状況は打開すまい」
言うだけ言って、その人は再びどこかへ歩いて行ってしまった。
なんだろう、あの通りすがりのお助けキャラみたいな人は。
とりあえずみんなも軽く頭を下げた後、円になってどうしようかと話を始める。
「どうする?」
「教官、ロックガガンというのはそんなに危険な魔物なんですか?」
「大きいという話は聞いているが、具体的にどのような物かはオレも見た事がないのでな」
「まぁ行くだけ行ってみたら? 出て来たら逃げればいいんだし」
「私もそれがいいと思うわ」
「……そうだな。ここで待っていたらいつ首都へ行けるかわからない。出発しよう」
とりあえず進む事に決まったらしい。
アスベルがソフィに寄りかかっているわたしを見て、申し訳なさそうにそれを伝えてくる。
むしろ申し訳ないのはこっちだ。
「シオリ、今から出発でも大丈夫か?」
「うん、まだ頑張れるよ。ありがとうね」
水を飲みながらも笑って答えれば、ぽん、とアスベルはわたしの頭を撫でた。