76.風の国の、王様

大統領の部屋に入ると、そこにはラントにいるはずのヒューバートさんまでが立っていた。
宿から見たのは見間違えでなかったらしい。でもどうしてここにいるのだ。

「ヒューバート? お前、どうしてここに!?」
「状況が変わったんです」
「ラント周辺に展開していたウィンドル軍が全て王都に撤退したそうだ。その理由がまた不可解なのだが……先に君達の報告を聞こう」
「それが……リチャード陛下が突然現れ、大輝石の原素を……」

言いにくそうにするアスベルの言葉に、彼らは顔を見合わせる。
それはやっぱり、といった色を浮かべていて、現状をさっぱり理解出来ていないわたしは首を傾げた。

「リチャード国王は大輝石の原素を吸収していったのではないですか?」
「どうしてそれを?」
「それがウィンドル軍の撤退理由だからです。リチャード国王が大輝石のエネルギーを全て吸収し失踪したため……王都では大きな混乱が起こっているようです」

つまり、リチャードがウィンドルとストラタの大輝石の原素を吸収し失踪中。
アスベル達が暗い表情をしていたのは、その場面に出くわしたから……だろうか。
ヒューバートさんがアスベルの濁した部分をあっさりと口にしたのを聞いて、わたしは無意識に胸に手を当てる。

「原素を……吸収……?」
「リチャード陛下は何故このような事をしている? 心当たりはないか?」

そんな事聞かれても、あるはずがない。
黙り込んだみんなに、大統領は仕方ないかと小さく息をついた。

「……とにかくこのままにはしておけない、大至急手を打たねば。問題は二つだ。一つは大輝石が失われた事への対処。そしてもう一つはリチャード陛下の行方と目的を判明させることだ。こうなると、もう国同士で角つきあってる場合ではないな」
「二つの大輝石がこうなった以上、最後の一つも狙われると考えるのが自然です。リチャード国王は次にフェンデルへ向かう可能性が高いでしょう」
「アスベル君に頼みがある。リチャード陛下の追跡を引き受けてくれないだろうか」

その言葉に、アスベルが息をのんだのがわかった。
リチャードを追跡するという事は、彼が次に向かうであろう、最後の大輝石がある場所……フェンデルに向かうという事だ。
フェンデルは、ラントが国境争いをしていた国のはずだから、色々と複雑なのだろう。

「それは……私にフェンデルに行けという事でしょうか」
「君は陛下の事をよく知っているし、お仲間は大輝石に詳しい。適任だと思うんだが。もちろん、我が国は全力を持って君達の行動を支援する」

その言葉に、アスベルはみんなの顔一人一人を見て、頷きあって、それから大統領に向き直った。

「わかりました。私達としても陛下や大輝石の事は気掛かりでなりません。ですから閣下の提案を受け入れます」
「そしてヒューバート。君もアスベル君と行け」