80.ご指名、戦いへ

「ぐあっ!?」

下まで駆け下りると、わたしたちの状況に真っ先に気付いてくれたソフィが、追いかけて来た軍人を突き飛ばしてくれた。
あっさりと突き飛ばされた軍人の声は思った以上に響いて、ソフィだけでなく、シェリア達も慌ててこちらへ視線を向ける。ああ、なんだか大事にしてしまった気がする。ごめんなさい。今のうちに謝る準備をしておこう。

「ソフィ!? パスカル!? シオリまで! 大変!」
「三人に何をするんだ!」
「この女が我々の武器を持ち去ろうとしていたのだ」
「もっかい見せてって頼んだだけだよ。ね、シオリ」
「いや、まぁ……わたしは軍服かっこいい〜って見てただけだし」
「パスカル連れて行くの、ダメ」

そう前に立ちふさがるソフィに、パスカルは感激したように彼女を見る。
なんだかんだソフィもパスカルが好きなんだね。うんうん、よかった……なんて言っている場合ではないのが、悲しいところである。

「女は捕らえたか?」

ほら。当然これだけで騒ぎが終わるはずがない。上官だと思われる、白っぽい服を着たサングラスの軍人がゆっくりと降りてきた。
彼はまだ捕まっていないパスカルを見て、一緒にいるわたしたちを見て。それから、僅かに顔を歪めた。

「貴様達……? さては例のスパイの関係者か? すでに調べはついているぞ。貴様達が我が軍の中にスパイを紛れ込ませていたことはな」
「……意味のわからない言いがかりは止めて貰いましょう」

静かなヒューバートさんの声がして、彼もまた余裕然とした表情でわたし達の間に歩いてきた。
ちょっと意外だ。むしろ彼の方が怒るかと思ったが、どうやらこの状況を上手く利用する気らしい。何に利用するのかはわからないので、黙って見ているしかできないのだけれど。

「……ぼく達はライオットピークの猛者達に挑みにきたんです」
「とぼけやがって……なら我々がライオットピークで相手をしてやろうか? そうだな、ただ戦うだけじゃ面白くない。どうせなら賭けをしようじゃないか。我々が勝ったら貴様らにはたっぷり話を聞かせてもらうぞ」
「こちらに何を期待しているのかわかりませんが、挑戦なら受けてたちますよ。どうせぼく達は戦うために来たんですから」
「その減らず口がいつまで叩けるかな? ……あとそっちの女!」
「え? わたし?」

突然指を指されて思わず後退る。何か気に障ることをしてしまったのだろうか。
身構えるけれど、軍人は何か言いにくそうにもごもごと口を開閉させたかと思うと、ツンとそっぽを向いて。そうして、おずおずと言葉を紡いだ。

「……この軍服、そんなにかっこいいか?」
「かっこいいです」
「よし! 我々先には待っているぞ。必ず来い女!」

思わず即答すれば、彼は豪快に笑い出す。
そしてそのまま上機嫌に階段を登って行った。
……てゆうか、あれ?
……え? ご指名?

「弟くんかっこい〜い」
「あんなこと言って大丈夫なのヒューバート」
「ぼく達の会おうとしていた密偵は、どうやら彼らの手に捕らわれてしまったようです。その人を助け出さない事には事態は打開出来ません。こうなった以上、彼らと戦って勝利し、その人を救い出すしかないでしょう」