16.わたしと、世界

アスベル達を見送った後、わたし達はソフィを中心にしてアンマルチアの里の中を歩き回る事にした。
以前、フェンデルの政府塔に侵入する際にお世話になったフェルマーさんがあの後結婚して、もうすぐ子供が生まれるーとか、アンマルチア族お手製のパズルゲームとか。いろんな話題があふれていて、意外にも気を紛らわせるには絶好の場所だった。

ソフィもぎこちないながら笑ってくれて、わたし達は心底ホッとしている。
ホッとしているのだが……わたしは少し、気が重かった。
ソフィの話を聞いて、なんだか胸がざわついて……どうにも、彼女と距離を取ってしまう。それはちょっと不自然かなぁと思いながらも普通を装っていれば、そっとパスカルが近付いてきた。

「シオリもちょっと元気ないね」
「え、そうかな」
「そうだよ。じゃなかったら今のソフィからこんなに離れたりしないもん」
「……なんだかパスカルはわたしの事、よく見てるなぁ」
「だってあたし、ソフィと同じくらいシオリが好きだもん」

にっと笑うパスカルは、なんだかんだ一番しっかりしているような気さえする。
というか、わたしの事って意外とみんなに筒抜けな気がする。これでもポーカーフェイスとかには自信があったんだけど……でも、わかってもらえるのうれしい、な。

「……ソフィはさ、普通のお家に生まれて普通に生きて、そうやって……みんなと一緒に居たかったんだよね。そんなこと聞いたらなんかちょっと……わたしの家族はどうしたのかなって、思って」

ぽつり、一度呟いてしまうと、そこからはするすると言葉が溢れてくる。
半年前にきちんと割り切ったはずのそれが、再びわたしの中で渦巻いて溢れ出てきてしまう。

「わたしは別に今の暮らしに不満なんてないよ。むしろ、大好きって言える人がいる世界で生きられてとても幸せ。向こうへの帰り方もわかんなきゃ向こうに居場所はないって割り切ったけど……向こうは、割り切れたのかなぁって」

元の世界で、一緒に生きるはずだった人達。わたしが生きるべきだった場所。
あの場所に、わたしが残せたものは何もないだろう。良くも悪くもわたしは平凡で、特別に秀でたものもなければ、誇れるようなものもなかった。それで構わなかった。それだけでも、わたしは十分だって、思っていたから。
だから、今何かを必死に残そうとして、何かを必死に拾おうとするソフィを見ていると……彼女がとても眩しいような、うらやましいような。彼女が欲しがるものを持っていながら、それを特別だとも大切だとも思わなかったことが、申し訳なくてたまらなくなる。
そう口を噤むと、パスカルが少し不安げに眉を寄せているのに気付いた。わたしは慌てて手を振って、二人の間に生まれてしまった沈んだ空気を払おうと笑う。

「ごめん。なんか辛気臭い事言った」
「いいよ。シオリはもっとそういう事言うべきだって」

パスカル、君は実にいい娘だよ。
わたし以上に明るい笑顔で返してくれた彼女にそう思う。
本当に恵まれてるなぁわたし。迷い込んでしまった世界がここで、出会えたのがみんなで、本当によかった。

「……ま、いいんじゃない?」
「え?」
「さっきの。シオリにとってはどっちも大切なんだろうし、悩むのも仕方ないよって。だって悩むって事は楽しかったって事だし。……死んじゃったんだとしても、今シオリはここで生きてるんだから仕方ないよ」

慰めてくれているんだ。そんなの考えないでもわかる。
ああ、どうしよう。本当にどうしよう。うれしくて、困ってしまう。

「あたしは、シオリに会えてよかったよ」
「……わたしも。わたしもパスカルに会えて良かった」

本当に。わたしが今生きているのが、ここでよかった。
……別れてしまった世界のことを忘れてしまう申し訳なさを、忘れてしまうくらいに。