その後すぐにソフィの近くに駆けていったパスカルは、先程の会話なんて無かったようにいつも通りだ。
すごいなぁ、わたしももうちょっと割り切れる子だったのに。すっかり駄目だ、と軽く自分の頬を叩く。
一人気合いを入れていたら、今度はシェリアがわたしの方に近付いてきた。
「ねぇシオリ。私はあの子に何か残してあげられるかしら」
唐突な質問。
けど、そろそろ誰かが口にするだろうなと思っていた疑問でもある。
彼女を、どうしても置いて行ってしまうわたしたちが、絶対に考えるであろう、こと。
「難しい事はわからないけど……ソフィはやっぱり、今のままでしかいられないのよね?」
「……たぶん。ソフィは永遠に近い時を生きるよ」
さっき、微かに聞こえてきたラムダの声を思い出してそう答える。
アスベルとラムダが話す声は、遠くにいても聞こえてくるらしい。さすがに、近くにいた時ほど鮮明ではないし、こちらから話しかけるには遠すぎるみたいだけれど。話しているな、ということは感覚としてわかるし、すごく耳をすませばなんとなく内容も分かる。
今回は、ただ、アスベルも悩んでいるのだろうってことしかわからなかったけれど。
それでも、ソフィがプロトス1と呼ばれるヒューマノイドである以上、壊れない限りは絶対に死んだりしない。平均の稼働年数はわからないけれど、フォドラでまだ稼働しているヒューマノイドが複数いたあたり、やっぱり彼女は、わたしたちの感覚からすれば永遠に近い時間を生きることは、間違いない。
「それなら、何かを残してあげるしか私達には出来ない。でも……私に出来る事は本当にちっぽけで、だからどうしたらいいのかわからないのよ」
「……そっか。そうだよね、うん」
「シオリ?」
みんな悩んでる。
大好きなソフィに笑ってもらうために。
大切な大切な、人のために。
「大丈夫だよ。だってシェリアは、ソフィのお母さんだから」
こぼれ出そうになった何かを無視するように、押し込むように。わたしはにっこりと笑って、シェリアの手をぎゅっと握った。
視線はそらさない。そう思っていることは嘘じゃないから。本当だから。大丈夫だよって、伝えたいから。
でも。でも。わたしがどうしても、思ってしまうことは、気付かないでほしい。
……置いてきてしまった、わたしの、世界へ。
わたしは何かを残せたでしょうか。
わたしは今までちゃんと生きたのでしょうか。
わたし、ちゃんと、そこにいましたか。
何も残せなかった、突然いなくなったわたしのこと。
……みんなは、どう、思ったのでしょうか。