20.娘さんを、定番

うはははっと笑うパスカルは実にパスカルらしく、そのままソフィに抱き付こうとする……まあひらりとかわされたわけだが。

「だってようやく挨拶出来るようになったんだもん〜いいじゃんか、ねぇ」
「パスカル。お前そう言ってシオリがオレの養子になった時真っ先に挨拶に来ただろう」
「えっ」

声を上げたのは誰だろうか。
誰でもいいが、わたしは苦笑を浮かべた。
フェンデルに暮らすと決まってすぐ、パスカルは様子を見に来てくれたのだ。
そしてその時、ほとんど変わらない台詞を言われたのである。

「だってシオリもソフィと同じくらい大好きだからさ。ねぇソフィ。シオリがあたしのお嫁さんになって、ソフィもあたしのお嫁さんになったら、そのままシオリはソフィのお嫁さんにもなるんだよ?」
「パスカルとシオリがわたしのお嫁さん?」
「そう!」
「そうってあんた……」
「……ちなみに姉さん。もう一人は一体誰だったんですか?」
「……その時はまだフェンデルじゃなくて、ストラタ寄りの所にいたからたまたま出会った、シェリアです……」

みんなの視線が静かにシェリアに動く。
ちなみに彼女の場合、「私はあんまり自炊する時間もとれなそうだし……シオリの作ったお味噌汁が毎日飲みたいわ」と、以前プロポーズに使ったりするんだよ〜と説明したことのある、実に日本風な台詞であった。わたしの故郷に合わせてくれる辺り、たぶん一番美しい求婚であったと思う。
タイミング的にも一番手だったりするシェリアは、みんなの視線にただにっこりと笑ってみせた。

「女子は言われる側だから、一度言ってみたかったのよ」
「かなり本気な目だったぞ」
「あなた方はどうしてそうなんですか。そんなだからいつまでも……」
「何よ、ヒューバートだって……」

何やらあーだこーだと言い合いを始める二人に、どうしても笑ってしまう。
フォドラはもうすぐだというのに、みんなは普段と何一つ変わらない。
ある意味物凄い強さだと笑っていれば、同じようにくすくすと笑っていたリチャードと目が合った。
それが合図かのように、リチャードはこちらへとやってくる。

「賑やかだね」
「そうだね……でもおかしいなぁ。わたしがみんなを嫁にもらうはずだったのに」
「ははは、ならこの際僕にしてみるかい?」
「は?」

一瞬、言いたい事がわからなかった。
えーと? ああ、リチャードと話すのなんてみんなよりもっと久しぶりな感じがするから余計に意図がはかりにくい。

「僕の方も、今いくつも縁談が持ち上がっていてね。シオリなら歓迎するんだけど」

そんなわたしの心境を知ってか知らずか、リチャードはずいと顔を近付けてにっこりと笑った。
ロイヤルスマイル。
この人達は自分が美形だと理解しているのだろうか。
どこまでが冗談なのかがわからなくて、つい顔が熱くなる。

「え、わたしは……」
「シオリ!」

ガッシと腕を掴まれて、わたしはそっちを見た。
わたしの腕を掴んだのはアスベルだ。
彼は何故かいっぱいいっぱいといった様子でわたしとリチャードを見て、それからぐいぐいとわたしを引っ張った。

「ちょっと道具の補給をするから、ついてきてくれ」
「え? 道具の管理はシェリアとヒューバートくんじゃ……」
「二人は今忙しいみたいだから」

アスベルにしては珍しい行動に戸惑う。
でもまあ、確かに二人は今、やんややんやと騒いでいるようだし、嘘ではないだろう。
疑問だらけの中、唯一わかったのは、リチャードが後ろでくすくすと笑っている事だけだった。