34.どうして、まだ

ぽたり、水音がした。
遠く、いや、すぐ近くから聞こえたそれは聞き覚えがある。
ただの水の音じゃない。雨に似た、けれど確かに違う、音。

「シオリ?」

マリクさんが隣で息をのむ。
水の音が近付いてきて、ぐんにゃりと水泡を作り出したかと思うと、その形を変え始めたからだ。
その水はわたし達の目の前で……かつてガルディアシャフトで見た時と同じように、また幼いわたしの姿へと変わる。現れた幼い彼女に、思い思いの場所で一休みしていたみんなが集まってきた。

「……あれは?」
「シオリの小さい頃……だと思う。半年前、エフィネアのガルディアシャフトにもいたんだ」

リチャードに小声で説明しながら、みんなは警戒しながら距離をつめる。当然だ。あの時もこの正体が何かはわからなかったし、ここはエフィネアのガルディアシャフトとはまったく関係ないフォドラの森の中だ。これが現れること自体がおかしい。
半年前となんら変わりない姿。水音を立てて現れた彼女。目的も正体もわからないそれに、けれどわたしはなるべく動揺しないよう、真っ直ぐ彼女を見た。

「……半年ぶりだね。突然どうしたの?」

一度いなくなったじゃない、と少し強気に出てみる。
幼い彼女は全く動じない。ただ、前回と同じように、寂しそうな顔をして、わたしへと近付いてくる。

『わたしが不安だから。永遠に気付いたから』

ゆっくりと、そう言葉を紡いで。たどたどしく歩く彼女に、わたしは動こうという気にはなれず、その動向をただ見守っていれば……彼女はぎゅうと、わたしの服を掴んだ。

『どうしてまだ生きてるの?』
「……っ!?」
「シオリ!」

ぐらり、世界が反転したのかと思った。
急に力が抜けて、受け身も取れずに地面に倒れ込む。みんなが集まってくるのを感じるが、それを確認する気にも、平気だと答える気にもなれない。
痛い。痛い。痛い。
体中が痛い。じんわりと体が熱くなるのに寒くなる。
力が抜けて音が遠くなっていく。
わたしはこの感覚を知ってる。そう、知っている……

『もう死んだのに。会えないのに』

意識が沈んでいく。
でも今は、あの時と違って子供の泣き声は聞こえない……聞こえない。

『夢の中なんて、寂しいよ』

夢は、なんの夢。