36.かえって、きて

「シオリ!」

突然倒れたシオリを見て、様子を見ていた彼ら全員が彼女に駆け寄った。
アスベルが抱き起こすも、彼女はぐったりとして動かない。気絶しているかと焦るうちに、体のあちこちに血を滲ませ始めていることに気付いて、いったいどういうことだと困惑した。
目の前でぼんやりと立つ幼い少女がやったとは考えにくい。彼女は一切の攻撃の素振りを見せなかったし、今もなお、彼女の体には傷が広がり続けている。
シオリの異常な自己治癒力は、この半年も健在だ。健在の筈だ。
なのに、その傷は塞がらない。シェリアが急いでその手を翳して治癒術を使うけれど同じだ。何かに弾かれるように治癒術が相殺されてしまって、傷を治すことができない。

「そんな、効かないなんて……!」
「シオリの回復力、別に無くなったわけじゃなかったよね!?」
「……シオリ姉さんに何をしたんです」

みんなが動揺を隠せない中、ヒューバートは幼い少女を睨む。
だが、少女は怯えることも、悲しむこともせず、ただゆるく首を振って話し出した。

『わたしはフォドラの子でも、エフィネアの子でもない。ここは、いろんな力が溢れていて、ラムダの力なんてなくても、世界に触れられるから……この場所の力を使って、わたしたちが存在すべき世界にかえろうとしている』

彼女が、この世界の人間でないことは、みんな知っている。長いこと彼女が隠していたことも。その理由が、元居た世界で死んでしまったからだということも、全部。
だから、元居た世界に帰るということは、つまりシオリを殺すことなのだとわかってしまって、無意識に手に力がこもる。

『……誰にも見られたくなかったのに。一人で良かったのに。どうして放っておいてくれなかったの……』
「シオリがそう、選んだからだ」

マリクがそう低く答える。
だが少女は首を振った。

『本当に今も選ぶのかな。帰れるならきっと帰る。そこにもう居場所がなくたって、わたしは帰るよ』
「……居場所が、なくても……?」

もう自分はいない。
自分は死んでしまったのだから。
それでも、また死んでしまうとしても。元居た世界に、自分が生まれ育った世界に、彼女は帰りたいと願うのだろうか。……願う、かもしれない。シオリは、本人の自覚は置いておいても、少し自虐的なところがあるから。それが正しいことなら、自分がいなくなるのも仕方のないことだねと、答えるかもしれない。
最近、彼女がホームシックのような素振りを見せる事を知っていたマリクやパスカルは、二の句が継げないまま押し黙った。