わたしにとって久しぶりの大学は、記憶の中のそれと何も変わらなかった。
当たり前といえば当たり前なのだけど、その事がやけに新鮮に感じる。聞こえてくる電車や車の音も、カバンの中で震える携帯も、全部が全部、懐かしい。匂いも違えば、手触りも違って感じるのは、少し変だろうか。
結構、体が使い方を覚えているんだな、と思いながら電車に乗って、大学まで登校してきて。わたしが今いるのは、あの夢の中の世界ではないのだと、改めて認識させられている気分だった。
「帰って来たんだ……本当に」
今さら、最初の願いが叶ったって、困る。
そう思うのは、わたしがもう向こうに慣れてしまったからだろうか。あの世界で生きるって、ちゃんと決めたのに。突然、もういいよって、物語の途中で追い出されたみたいで、落ち着かない。
自分が生きてここにいることは嬉しい。
もう一度、生まれ育った世界で暮らせるのも嬉しい。
ここは命がけで戦う必要なんてないし、生活することにそんなに困っていたわけでもないし。ちゃんとルールを守れば、それなりに安全に生きていける。楽しいことも面白いことも、たくさんある。
……でも、物足りない。
ふわふわと落ち着かないままなのは、その物足りなさが原因だ。
どうしても、寂しいと感じてしまう。一緒に旅をした仲間がいないこと。一緒に戦ってきた人たちがいないこと。
……好きになった人が、いないこと。
それがたまらなく寂しくて、すぐにでもあの世界に帰りたくなって。これでは、どちらがわたしのいた世界なのかよくわからない。
わたし、どちらの世界で、生きたかったんだろう。
「潮流っ」
「わっ!?」
肩を叩かれながら名前を呼ばれて、慌てて振り返った。
そこにいたのは友人……ああしまった、今パッと名前が思い出せない……だ。
彼女はカラカラと笑いながら、空いていたわたしの隣の席に座る。
「もーどうしたのさ。潮流ったらずっと心ここにあらずって感じでさー」
「あはは、ごめんごめん」
すぐに軽く笑って流す。大丈夫。なんでもないって顔をするのは昔から得意だ。
無理したって、誰も気にしない。きちんと線を引けば、みんなこれ以上は近付かないようにしてくれるから。大丈夫だよってやんわりと断れば、そうか、と引き下がる。無理に入ってくるほどわたしを好きになる人はいない。
そう、だからわたし、この世界で、みんなのことを好きになろうって思ったの。みんなわたしのことを好きにならないのがほんの少しだけ寂しかったから、じゃあわたしがみんなのことを好きになろうって。
わたしの大丈夫を突っぱねる人なんて、ここにはいない、から。
「……ちょっと今日夢見たんだよ。事故にあう夢」
ふと、確かめてみようと思った。
あの日々が、本当に夢だったのか。わたしはまだ、ちゃんと生きているのか。
「うわ不吉。あたしいた?」
「ソッコー走ってどっか行った」
「ちょ、あたし酷い! それとも救急車とか呼びに行ったのかな」
「携帯で呼べよ」
なんで走っちゃうのさ、と笑って、泣きたくなった。
ああ、やっぱり事故から夢だったのだ。
だからわたしは生きてここにいる。
夢。全部夢。わたしのことを好きだって言ってくれたみんなも、夢。
ここにはソフィもマリクさんも、シェリアもヒューバートくんもパスカルもリチャードもいない。
ラムダだって……アスベルだっていない。
いない、のだ。