ばしゃんと、水の中に落ちた気がした。
あの初めてエフィネアに来た時みたいな、あの水の中にいる感覚。
そして、また懐かしい、水中から飛び出した音と、急にクリアになる呼吸。今まで水の中にいて、もったりと鈍くなっていた感覚が急に冴えわたる。
もっと違う、木の臭い。
もっと違う、熱いくらいのぬくもり。
誰かのいる、場所に、わたしはいる。
「う……」
「っシオリ!」
「い……ったぁたたたたた!」
何か痛みを感じて目を開くと、一気に全身を痛みが走った。
どうやら倒れていたらしいけれど、痛くて起き上がれない。なんだなんだと痛んだ場所に触れてみれば、ぬるりと指先が濡れる。赤い。どうやら血が出ているらしい。
それでも痛いのは今だけ、と思って歯を食いしばるようにして痛みが消えるのを待つと、急に暖かい光がわたしを包んだような気がした。
わずかに目を開くと、シェリアがわたしに治癒術をかけてくれているのが見える。心配そうに、真剣な顔で。わたしを見る、シェリアの姿。
……わたし、戻ってきたの?
「あ、ありがと……ったぁ!?」
「シオリ!」
とりあえず治療してくれたシェリアにお礼を言おうとしたら、思った以上にすぐそばにいたらしいアスベルが勢い良く抱き締めてきた。
力が強いとか痛いとか近いとか、色んな思考が一気に頭の中を駆け巡って、ガチガチに固まってしまう。
「あ、あああああああのアスベルさん? どどどどうし……」
「良かった」
ぎゅ、と、更に力がこもる。耳元で呟かれた言葉に、わたしからは力が抜けた。
いつかのウォールブリッジでの時よりもずっとずっと心配をかけてしまったらしい。
なんだかよくわからないけれど、わたしが夢を見ている間のわたしは怪我をしていたみたいだし……でも、申し訳ないと思うと同時に嬉しく思ってしまうのはいけないことだろうか。
そっとアスベルの背中を叩いて、わたしは小さく小さく呟いた。
「……心配かけて、ごめん」
「本当に、良かった……」
ぎゅうと、後ろからソフィが抱きついてくる。
どうやらみんなが手を握っていてくれていたようで、その手に力が込められる。
……嗚呼。わたし、ちゃんとここにいる。
ここで、生きてるんだ。
『……どうして?』
呆然とした子供の声に、わたしはそちらを見た。
信じられないとこちらを見るのは、もちろん小さなわたしだ。
『なんで? せっかく帰れたのに、なんで?』
「なんでって……自分で選んだからだよ」
そりゃあ家族に会えないのは寂しいけど。
それでも、ここに残ることをわたしが選んだから、後悔はない。
「わたしはやっぱり、みんなと一緒がいいから」
だからそうはっきりと宣言すれば、ポンとマリクさんに頭を撫でられた。
見上げたマリクさんが笑ってくれたから、わたしも笑う。
「心配かけさせるな」
「あはは、ごめんなさい」
ごぼりと、水が動いた音がした。
ここは当然水の中なんかじゃない。
けれどやけにはっきり聞こえたそれは、幼いわたしの周りに……輝術だろうか? 水が渦巻く音だった。
ぎゅっと拳を握って肩を震わせているのが遠目にもわかる。
『……もういい。わたしなんか嫌い。シオリなんか嫌い! もう代わりになんて愛さない!』
そう激昂した彼女はそのまま水を操ってわたしと同じ二本の剣を作り出す。
完全に戦闘体制だ。
それぞれに武器を構えたみんなに、わたしは慌てて立ち上がった。
「待って! ごめん。手を出さないで!」
「シオリ? でも……」
「これは、わたしがつけなきゃいけないケジメだから」
だから戦うのはわたしだけだと言って武器を構える。
そうだ、戦うのはわたしだけ。
まだ小さくて、わがままで、一方的な夢を見ているくせに逃避することしか考えていない、誰のことも本当に好きになれなくて、自分のことだって好きじゃなかったわたしを乗り越えるのは、わたしがやらないといけないことだ。
強く言えばみんなは不安げながら納得してくれたらしく、わたしはお礼を言ってわたしに向き直った。