56.ずっと、未来まで

やがてゆっくりとアスベルの手が離れたところで、最終調整に戻ったサイくんを除くわたし達三人は、並んでシャトル発射場の先に座り込んだ。
そこから見えるエフィネアを眺めて、少しだけ無言。
心地良いような、どこか胸がざわつくような、そんな沈黙を破ったのはアスベルだった。

「……昔ソフィを家に連れて帰った時、お前に面倒が見れるかって親父に怒鳴られたことがあったんだ」

遠く、昔の景色を見るようにそう呟く。
その目はまだ出会ったばかりの時に、何度も何度も見た目だ。
わたしの知らない七年前を思う時、彼はいつもそんな目をしてた。

「もし親父が生きていたら、今の俺達を見てなんて言うかな。きっとまた、お前じゃ無理だとか言うんだろうなぁ……」
「そうかな。案外やるじゃないかって言うかもよ。お父さんとお母さんて、自分が思うよりずっとずっと、わたし達を思ってくれてるし」

アストンさんとわたしは話した事なんてないけど、なんとなくそう思った。
ケリーさんやラントの人達、シェリアから聞いた時に感じたのは不器用で優しい人柄だったから。
だからそう言えば、アスベルはどこか照れるように願うようにはにかんでみせる。

「……そうかな。そうだといいな。そんな自分になれていたら……今でもこうして時々、親父の事を思い出すんだ。親父を懐かしく思う事がある。親父の想いを感じる事もあるんだ。俺は親父の想いを未来に繋いでいきたい」
「未来へ……繋ぐ……」
「ラントの人々の暮らしが少しでもよくなって、笑顔で暮らしていけるように。今いる人達だけじゃなく、その子ども達もそのまた先も、ずっと笑顔に出来たらって。ずっとそれが続けばって」

ずっとずっと未来まで。
みんなが幸せに笑ってくれますように。
それは途方も無い願いだ。
決して答えを見ることの出来ない願い。

「けど、俺一人が一生の間で出来る範囲は限られてる。俺が親父の想いを受け継いだように、俺の子孫……っていうのかな? 彼らもまた、俺のこんな想いを受け継いでくれたらいいなと思うようになったよ。そんなずっと先の事は見ることが出来ないから、どうなるかはわからないけど……」
「わたしなら、ずっと先まで届けられるよ」

頭を掻いたアスベルを遮ったのはソフィだった。
彼女は立ち上がると、大切に抱き締めるように自分の胸に手を当てて、アスベルを……自分の父親を真っ直ぐに見る。

「アスベルの子ども達の子ども達の子ども達……ずっと先まで、アスベルの想いを届けられるよ。わたしにアスベルの想い、あずけて」
「ソフィ……」
「どうしてだろう。ずっと不安だったのが嘘みたい。アスベルはいなくなっても、いなくなるわけじゃないんだね。ずっと繋がっていくんだね。この先もずっと……その繋がりを見守っていきたい。それはきっと、わたしにしか出来ない事だから……」

嬉しそうに声を上擦らせる。
それは、たくさんの出会いを喜ぶと同時に、多くの死を見届けるということだ。本当は、切なくてたまらないことなのかもしれないけど……本当に嬉しそうに、ソフィは笑うから。
だからわたしやアスベルも、自然と笑顔を形作った。

「お前は凄いな。子どもだと思ってたけど、俺なんかよりずっと大人だ」

アスベルに言われ照れた様子のソフィは、そのままわたしの方を見る。

「シオリ、わたし、嬉しいよ」
「うん。そうだね。これでずっと、ずーっと、一緒だもんね」
「シオリ。わたし、シオリが大好きだよ。笑っていてほしい」

ぎゅっと手を握る。
わたしを真っ直ぐに見る。

「ちゃんとお話、してね」

そう微笑んだソフィは、なんだかとても大人びて見えて。
何も言わないままでいようとしていたわたしは、それではダメだねと、優しく諭された気がした。

「また明日」