57.未来へ、約束

そのまま外へと出て行ったソフィに、わたしとアスベルはびっくりした様子で顔を見合わせた。

「ソフィ、なんだか随分大人になった気がするね」
「そうだな。なんか、少し寂しいよ」
「アスベルは親バカだもんねぇ」

くすくすと笑いあう。
なんだか久しぶりだ、こういうの。
やっぱりここを選んで良かった、なんて密かに思えば、アスベルが「その……」と躊躇いがちに話しかけてきた。

「あのさ、シオリ。半年前にした約束のことなんだが……」

ぎくりと肩が強張る。
そりゃあ、まあ。心残りを残さないようにするなら、このタイミングだろうなとは思ったけれど。今のソフィの話からして、聞かれるかもしれないなとは、思ったけれど。
でもやっぱりちょっと気恥ずかしくて、わたしはさっと目をそらした。

「今、聞いてもいいか。みんなに言われたんだ。話せる時に話せって……俺はそれを叶えないままでいたくなんかないから」
「……本当に、しょーもないことだよ?」
「構わないさ」

アスベルの声が真っ直ぐにわたしに向けられる。
……この声は、ちゃんとこれからもわたしの名前を呼んでくれるのだろうか。
誤魔化そうとしていた不安がまたむくりと起き上がって、わたしはぎゅっと目を閉じた。
今、言わなきゃ。
もともとはもっと早くに言うべきだったんだから。
バクバクと動く心臓を押さえて、わたしはキッとアスベルを見た。

「わたしと、デートしてください」

言葉にするとやっぱり呆気ない。
だってたった一言だ。発音がしにくいわけでも、実行不可能なこともなんでもない。全然、なーんにも、難しいことじゃない、ただのお願い。
ただそれでも羞恥心だけは湧き上がってくるもので、わたしは慌てて言葉を付け足した。

「いや、デートっていうか、一日中一緒に遊んでくれるだけでいいんだけど……な、なんでにやけるのさ!」
「いや、だって、ずっとそれを言おうとして言えなかったんだなって。シオリはそういうこと素直に言うから、ちょっと意外だった」

くすくすと笑うアスベルに、わたしはたぶん真っ赤になっているであろう顔でジトーッと睨む。
確かにわたしには似合わないくらいのもじもじっぷりだったかもしれないけど。自覚はありますけど。ものすごーくへたれていたのは、わたしが一番わかっていますけど!
拗ねてしまったわたしに気付いたのか、アスベルは少しだけ慌てた表情でわたしを見る。
それからスルリとわたしの頬を撫でるように包んで、ふわりと笑った。

「叶えるよ。帰ったら、一緒にどこか行こう。なんなら、ラント案内でも構わないぞ?」

ドクドクと心臓が高鳴る。
なんでわざわざ頬を触るのと叫びたいような、もう少しこのままでいたいようなで呼吸が難しく感じるくらいぐるぐるするのがわかる。
結局わたしは視線を下に向けるだけで、なんとか絞り出した言葉をかすれそうな声で呟くしか出来なかった。

「……じゃあ、その時に、聞かせてくれる? アスベルのお願い事」
「……ああ。ちゃんと伝える。約束だ」

ほわり、笑って、わたしはアスベルの手をそっと自分のそれで掴んで小指を絡めた。
少し幼稚だけど、指切りをしようという合図。
アスベルも素直に従ってくれて、わたし達は声を揃えて決まり文句を口にした。

“……お前は、出会った時よりずっとお前らしくなったな。願いは叶ったのか?”

不意に、ラムダの声がした。
いつもより、僅かだけど柔らかくなった声が響いてくる。

“安心しろ。この者はきちんとここに帰ってくる……貴様が生きる道に、必要なようだからな。”

それきり黙ったラムダに、わたしはアスベルの穏やかな紫の瞳を見た。
わたしが生きる道に、必要な。
ああそうか、そうだね。

「アスベル」
「ん?」
「わたし、思ってるよりずっと君が好きみたいだよ」

君と未来を思っただけで、震えが止まっていたよと言外に含める。
アスベルは数度まばたきをして、それから力強く笑った。

「俺も、シオリのこと思ってるよりずっと好きだよ」

ううん、これはちゃんと伝わってないのかなと思いつつ、まあそれがアスベルかと笑う。
そんなアスベルが好きなんだから、仕方ないかな。
スルリと指をほどいて、わたしは笑った。