59.今日は、未来へ

「パスカル、いた」

男性陣のいる部屋の前まで来て、わたしとソフィは足を止めた。
パスカルはマリクさん達と何かを話していたらしい。
ソフィを見て嬉しそうにしたが、それより先にマリクさんが少し驚いたように目を軽く見はった。

「なんだお前ら。まだ寝てなかったのか?」
「こっちのセリフです。まあいいや、パスカルに用があるんだよ」
「あたし? なになに、なんの……」
「パスカル!」
「うひゃあっシェリア!?」
「ちょっと、なんで顔を見ただけで逃げるのよ!」

シェリアを見た途端に走り出した彼女に、またナイフが投げられた。
どうやら完全に敵認定されているらしい……再び始まった戦いに、部屋の中にいた他の仲間達も外へと出てくる。
シェリアはパスカルにナイフを投げながらも途中にリリジャスを唱え、彼女の射程内に入らないように牽制していく。
その様子にほう、とマリクさんは声をもらした。

「おい、シェリアの奴、ほんのちょっと見ない間に随分強くなったな」
「詠唱の短い術を上手く使っているね。それでいてパスカルさんの技に当たらないように間合いをとって牽制している」
「パスカルさんも術技をうまく使い分けていますね」
「二人とも凄く強いな」
「えらい冷静に実況してるね……」

呑気なものである。
だが実際にいつも以上に力を発揮しているシェリアに、わたしもソフィもパスカルとの戦いに割ってはいることはしない。
シェリアがパチンと強く指を鳴らすと、パスカルの動きが止まった。
そしてほぼ同時に、シェリアが自らの背に魔法陣を出現させた。

「全弾行くわよ! 泣いたところで許してあげない! トリリオン・ドライブ!」

魔法陣から飛んだナイフを追うように、回転するように跳んだシェリアが再びナイフを投げる。
光の線を描くようにしてやがて収束したそれは、そのまま勢い良くパスカルに降り注いだ。

「うひゃあああっ!」
「はあ、はあ……さあパスカル、観念しなさい……!」
「う〜ん……負けちゃったかぁ。シェリアも頑張ったしね、いいよ、入ってくる〜」

あっけからんとした様子でそう言って、パスカルは軽い足取りで走り去っていった。
さすがのマイペースぶり……とその背中を見送れば、疲れ切ったらしいシェリアがぶはあっと息を吐いてしゃがみ込んだ。

「もう、お風呂入ったのに汗びっしょり……なんでこんなになってるのよ〜」
「シェリア、お疲れ様」

ぽんぽんと頭を撫でるソフィに、シェリアはもちろん見守っていたわたし達もくすくすと笑みがこぼれる。
その中で眼鏡をくいと上げて、ヒューバートくんはわざとらしく真面目な声でため息をついてみせた。

「まったく、緊張感の無い人達ですね」
「まぁね……でもいいじゃん、スッゴいわたしたちっぽい」

これならなんの心配もないね、と笑えば、ヒューバートくんも小さな声で「そうですね」と呟いた。
うん、大丈夫。
いつも通りは、きっと未来へ繋がるよ。