63.手が触れる、距離で

「王家の血筋、その身に焼き付けろ! 我が緋に染められし剣は! 緋王電楼刃!」

そうリチャードが叫んだのを最後に、リトルクイーンは胸を押さえて距離をとった。
肩で大きく息をしながら、だが敵意に満ちた目でわたし達を見て、そしてすうっとその姿を空気に溶けさせる。

「忌々しきヒトに滅びを……与えます」
「……消えた……」

声だけを残して姿を消した彼女に、わたし達はホッと息を吐きながら戦闘の構えを解いた。
吹いてくる風が涼しくて、命がけの戦闘がただの運動だったみたいで何か嫌だな、と一人複雑な気分になる。
と、前へ進もうとしたアスベルがガクリと膝を着いたのを見て、わたしは慌てて駆け寄った。

「大丈夫!?」
「どうしたの?」
「いや、なんだろう。今何かが見えたような……」

平気だと首を振りながらそう立ち上がる。
だが、その瞬間にラムダの……たぶんアスベルに向かって話してるのだろう声が聞こえて、わたしはぴたりと止まった。

“これ以上進めばフォドラの意識が流れてくるやもしれん”
“幾百、幾千、幾億の時の記憶を見れば、お前の精神は崩壊する。お前は心を頑なにするべきだな”

そ、れは。
それは、ラムダでもどうにもならない事なのではないか。
前にラムダの記憶を辿った時、アスベルはラムダと生きる決意をしてくれたと思い出す。
あれは嬉しかった。ラムダはわたしをここに連れてきてくれた子だったし。
でも、今は?
今フォドラの記憶を見ても、アスベルはちゃんと、ここにいてくれる?

「シオリ?」

ぎゅっと、アスベルの手を握った。
驚いてわたしを見た彼の目をじっと見る。

「わたし、手を握れるような場所にいるから。だからちゃんと、ここにいるんだって事を忘れないでね」

ただでさえ、今ラムダを含むみんなに心配かけてるんだから、と軽く笑って言えば、アスベルもふわりと笑って頷いた。
握り返された手は、大丈夫だという証、だ。