フォドラの核へ向かう最後の道は、端が見えない程に広々とした空間だった。
青く光るようにも見える地面と天井は、だが明らかに外で見慣れたものとは違う。とにかく広い広いそれは気を抜けばみんなともはぐれてしまいそうなもので……わたし達は一歩歩くごとに、自然と気が引き締まっていくのを感じた。
そしてその奥……空に薄桃に輝くベールのようなものがかかっているように見える、その場所。
そこには見上げても全てを見ることが出来ないくらい大きな光があった。
感覚はエフィネアの核と同じなのに、それよりも遥かに大きな、光が。
「これが、フォドラの核」
「すっご……」
「エフィネアのものよりもはるかに大きい……」
「みんな、気をつけて」
ソフィの声に身構えると、フォドラの核からリトルクイーンが姿を現した。
一人、また一人と核から滲み出るように現れる彼女は、やがて数十人にもなって言葉を発した。
「「フォドラの子よ」」
「おいでなさい」
「「「共に安寧たる命を」」」
「「育むのです」」
「わたしが」
「「わたし達が、あなたになってあげる」」
「わたしはあなたじゃない」
幾つものリトルクイーンの声を、だがソフィは凛とした声で切り捨てた。
「ソフィ・ラントだよ」
大切そうに名前を紡いで、リトルクイーンを見上げる。
彼女だけの、彼女のための名前。
それを、彼女達は信じられないと繰り返した。
「ソ……フィ……?」
「アスベルがくれた名前。とても大切な、わたしの名前」
「……ヒトに、落ちたか」
「「「ヒトに落ちたか、フォドラの子」」」
「「ヒトに落ちた、フォドラの子」」
「ヒトに「ヒトに落ち「ヒトに落ちた」」「フォドラの「フォド」「ヒトに落ちた、フォドラの子」」
わなわなと震える唇で、いくつもの声が反響するように同じ言葉を繰り返す。
ずぶりずぶりと核の光の中に沈んでいく複数のリトルクイーンは、皆一様に無表情に言葉を繰り返し繰り返し……まるで無機質な機械のようなそれに、わたしは初めてゾワリとした。
見た目は可憐な少女なのに、わたしの嫌いな無機物と同じだと思わずたじろいだわたしの手を、グッと掴まれる。
ちらと見ればそれはアスベルだ。
何も言葉は交わさないが、それだけでざわついた心が落ち着いていく。
そうだ、一人じゃない。
ここにいるみんなが、一人じゃない。
「ヒトと共に……」
「滅びるがよい!!」
強い声と同時に光がより一層強く光った。目を開けてられなくて閉じれば、次に開いた時にリトルクイーンの姿は一つも見つけられない。
代わりにそこにいたのは、見上げる程巨大な女性。
豊かな長い緑髪に真っ白な服。貫禄さえ感じさせる強い声。
リトルクイーンが天使なら、さしずめこの姿は女神とでも……フォドラクイーンと言うのだろうか。
「ヒトよ。全ての命に対して、死を持って詫びるのです」
光が、音が、勢い良く突き付けられたように放たれて、わたし達は悲鳴を上げてばたばたとそこに倒れ込んだ。
頭が痛い。怖い。寒い。熱い。嫌だ。
昔、リチャードがラムダの力を使った時に感じたあの正体の分からない感覚の波が押し寄せてきて、自然と体が震え出す。
「星は全ての命をひとつに調和させる事で、その命を守ってきました」
「なんだ、これは!」
「頭の中に、直接……」
「言葉が、流れてくる……!」
どうやらみんなも同じらしい。
聞こえてくるフォドラクイーンの声の一つ一つが重く頭を揺らして、目の前がちかちかする。
「なのにヒトはその恩恵を忘れ、己が支配者のごとく振る舞い命の輪を乱した」
「頭が割れるようだ……!」
「くっみんな、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃな〜い〜!」
「うぅ……くっ」
「その罪は計り知れない。もはや滅びを持ってしか償えないのです……滅びよ!」
一際強いものが飛んでくる。
ぶわっとたった鳥肌にそう感じてぎゅうっと強く目を閉じたが、いつまで経っても衝撃はこなかった。
むしろ、急に体が楽になったような気がする。うっすらと目を開くと、わたし達を守るように薄い膜が広がっていた。
この膜は、この感じは。
「……ラムダ!」
“我でも長くは持ちこたえられぬぞ”
「わかった、あとは俺達に任せてくれ」
「わたし達の想いを、フォドラに伝えるんだ」
ラムダが助けてくれた。
姿は無いけど立派に仲間じゃんかと嬉しくなって、わたしは自然と笑顔を浮かべる。
少しふらつきながらも立ち上がって、そして各々がそれぞれの武器を構えた。
強く見るのは、フォドラの女王。
「大丈夫。絶対にわかってくれる。アスベルが教えてくれた」
「諦めなければ、分かり合えるって事を!」