もう戦えない。
がっくりと膝をついて、肩で大きく息をする。もう誰も、戦うだけの力は残っていなかった。
だがそれはフォドラクイーンも同じで、再び立ち上がっても何も出来そうにはない。
「滅べ、滅びよ、ヒトよ……わたしは守る。フォドラを守る……!」
譫言のように呟きながら、ふらふらと核に向かって歩いていく。
その様子に、パスカルが大変だと声を上げた。
「まっまずいよ! 核で原素を吸収されたら、また復活しちゃうって!」
「ちょっもうみんな戦えないよ!?」
「ラムダ、頼む!」
フォドラクイーンより先に原素を。
そう言外に込めて叫べば、アスベルの両目が鮮やかな紫に染まった。
その瞬間、わたしの体中が粟立つような感覚が通り過ぎた。一気に高まった何かがそのままアスベルの周りに流れて、そしてそれらは光として彼の背中に姿を表す。
まるで光の翼のように、紫の光が幾重にも重なってアスベルを浮かせた。
そこに確かに感じる、ラムダの気配。
「ラ……ムダ……」
「いくぞ!」
雄叫びを上げてアスベルは……ラムダは両手を前に翳した。
それに導かれたように、フォドラの核から光が飛び出しその手の中に吸い込まれていく。
フォドラクイーンが触れるより先に行われた行為に、彼女は流されるようによろめきその場に倒れた。
もう姿を維持することも出来ないのか、一人のリトルクイーンに姿が変わる。
彼女も本当に限界だったのだと思わず身を乗り出せば、アスベルが悲鳴を上げた。
「アスベル!」
「ぐ……ぐっぐあああああっ……」
「……っアスベル!」
気付いたら、わたしは駆け出していた。
大量の原素を取り込もうと悲鳴をあげるアスベルの体にしがみつくようにして、わたしはアスベルとラムダ、両方を抱き締める。
……今度はわたしも、二人を守るから!
「大丈夫。わたしも一緒に受け止めるよ……!」
何かが深く深く流れ込んでいくような、満たされていくような溢れ出してしまうような苦しいような、そんな感覚が伝わって、目の前が真っ白になった。
平行感覚を失って、体中から力が抜けたのに、どんよりと水の中に浮かぶ感覚がする。
ゆったりと目を開くと、真っ白な……でもどこか紫がかった……そう、朝焼けの光に似た場所の中に自分が漂うのがわかった。
意識をはっきりさせようと首をふると、他のみんなの姿も見える。
「こ……ここは?」
「ここは……フォドラの意識だ」
低い声にそちらを向けば、そこには目を閉じて漂うアスベルがいた。
「に、兄さん!」
「我はラムダだ」
「ア、アスベルは?」
「案ずるなプロトス1。この者の命は失われてはいない」
そう言いながら開いた両目は、両方ともが紫に染まっている。
ラムダがまだそこにいて体を動かせるということは、確かにアスベルは生きているのだろう。
ラムダが守りきってくれたのだと、みんな安心したように息を漏らした。
「さすがに我も、フォドラの全てを抱え込む事は出来なかった。しかし、憎しみの心だけは受け止める事ができたようだ……これで核は元通り。落ち着きを取り戻してゆくだろう。こうなったのも、僅かに残った命を守ろうとしたフォドラの意志なのかもしれないな」
「命を守る……」
「今から我は、言葉を交わしてみようと思う」
「言葉を?」
「我の中に閉じ込めたフォドラの憎しみの心に語りかける。フォドラの憎しみを理解し、信じる心に変えるために……百年、二百年とかかるやもしれんが、時間だけはある」
ラムダの言葉に一番に反応したのはソフィだった。
彼もまた、死ぬことのない存在。
だからこそ共感するものがあったのだろう。
寂しそうに俯いて、ポツリと呟く。
「そんなに長く……そんなに長い時間を、たったひとりで……?」
「我はひとりにはなるまい。永久を生きる少女がいる限りは……」
「……わたし……?」
「我の行く末はお前が見守っていてくれ、プロトス1」
優しく、笑った気がした。
遠回しに自分を、ソフィをひとりにはしないと、そう言ったラムダに、ソフィはもちろんみんなが目元を緩める。
「我はフォドラと共に夢を見よう。その夢の中でフォドラと語り合い、分かり合おうと思う。この者が我にそうしたように……そして再び目覚めた時、フォドラと共に見て行こうと思う。この世界を……」
それはアスベルが言ったことによく似ている。
アスベルがラムダに伝えた事が、また違う存在に伝わっていく……アスベルの思いが、繋がっていく。
……ああ、そうだね。
こうしてみんな、繋がって行けるんだ。
「……お前も、お前の思うとおりにすればいい」
「ラムダ……」
「支えてくれたこと……礼を言う」
ん、と溢れそうになる何かをこらえて頷けば、ラムダが笑ってくれた気がした。
すぐに仏頂面に戻ってしまったから、よくは確認出来なかったのだけど。
「さあ、この者をお前たちに帰そう」