「ここが……」
シャトルでやってきた羅針帯は、思っていたよりだいぶ整然とした場所だった。
エフィネアという惑星を囲っているだけあって、足場の周りは宇宙空間のように暗くふわふわとしている。いや、たぶん、宇宙といっていいのだと思うけれど。剣や魔法の世界という、元居た世界からずいぶんとかけ離れた世界観の中で、宇宙というある程度ニュースで耳にするようなものが出てくるのは、ちょっと不思議な感じだ。
正方形の狭い部屋の中央には台座がポツンとあり、奥に門のようなものが浮かんでいる……どこかアンマルチア族の里を彷彿とさせるそれに、全く見知らぬ場所ではないのだと安心する。
「あの先から行くのかな?」
「待って下さい。ここは慎重に……!」
「ありゃ、何も起きない。違うのかな?」
「アスベル。これはなに?」
そうソフィが示したのは中央にある台座だ。
ただポツンと置いてあるだけのそれは、いまいち使用用途や意味が見いだせない。
「これは……」
「どれ、オレが見てみよう。……何も起きないな。パスカル、ちょっとこっちを見てくれ」
マリクさんが台座に触れたり周りをよく観察してもさっぱりらしい。
門や経験や感覚的に、これもアンマルチア族の何かだろうと踏んでパスカルを呼ぶ。
が、彼女は先ほどヒューバートくんの意見も聞かずに調べに行った門の傍らにある装置の前に佇んだまま動かない。それどころか話すら聞こえていないようだ。
「パスカルさん?」
「どうしたパスカル。おい、返事をしろ」
「パスカル? ……っ?」
らしくなく黙り込む彼女に近寄ろうとして、ぞわりと静電気のような物を感じて足を止める。
なんだろう、何にも触れてないのに。
不思議に思ううちに、パスカルがくるりとこちらを向いた。
「ココマデ来テシマッタノデスネ」
聞こえた声に、みんなが反射的に構える。
パスカルの口から発せられた声は何故だか二重に聞こえ、パスカルとそうでない誰かの声が、カタコトに聞こえてくる。
「パスカルの様子が変だよ」
「ヒョオオオオ!」
「ソフィ、下がって!」
近付くのは危険だとアスベルが一歩前に出る。
パスカルは体をゆらゆらと揺らしながら目を閉じ、カタコトの言葉を紡ぎ続ける。
「ココハ、ゾーオンケイジ、ト呼バレル、アンマルチアゾクガツクッタ施設デス」
「ゾーオンケイジ……」
「……コレハ、パスカル様ノ時計型通信機ヲ介シテ、ノパーソカラハッキングシテ連絡ヲ……」
「ん? ノパーソ……?」
「誰だ、あなたは! パスカルさんに何をした!」
「ワタシハ、フレッリック、デス」
発せられた名前に思わず固まる。
言われてみれば確かに、パスカルの声と重なって聞こえるのはフレデリックさんの声な気がする。
それにノパーソは確か、フーリエさんがフレデリックさんに貸したなんとかってやつだ。ノパーソがノートパソコン的な何かだと考えたらハッキング云々も頷ける……ような気がしないでもない。名前似てるし。
「おじいちゃん! おじいちゃんがどうして!」
「イエ、デスカラハッキングヲ……」
「ハッキングなんてものは知らん。パスカルを返してもらうぞ!」
「さあ、どこにいるのです。出て来なさい、フレデリックの名を語る悪人め!」
フレデリックさんの話を全く聞かずに、アスベルとわたしを除く全員が戦闘の構えをとる。
それを見て、わたし達は慌てて声をあげた。
「ちょ、ちょっと、みんな待ってくれよ!」
「そうだよ、ノパーソでどうにかしたって言ってたじゃんか」
「オオ、サスガハアスベル様。シオリ様」
心なしか声が嬉しそうに名前を呼んでくる。
「……わかりました。今は信じましょう。それでどうしてフレデリックがこうして連絡をしてきたのですか?」
「ハイ、扉ヲ……」
みんなが武器をしまったのを確認したからなのか、ぶおん、と音を立てて門の中心が広がり、マリクさんくらいの人間でも楽々通れそうな道が開ける。
「ここを進めばいいの?」
「ハイ。コノ先ヲ進ンデイケ……ハッ……ミツカッタ……カクレナケレバ!」
「どうした? フレデリック?」
「ナンテ……コト……オマエガ……クルナ……」
「フレデリック? フレデリック!」
「ウギャァアアア………………」
パスカルの体ががっくりとうなだれ、力が抜けたように動かなくなる……そしてそれきり、フレデリックさんの声は聞こえない。
「フレ……デリック?」
「おじいちゃん! 返事をして、おじいちゃん!」
「死んだ……のか?」
キッとシェリアがマリクさんを睨む。
ノリで喋るからだとわたしもジトリと見れば、彼はさっと目をそらした。
アスベルがパスカルにかけより、その体を大きく揺すりながら声をかける。
「返事をしろ! フレデリック!」
「……うっ……あれ? あたし……何して……?」
今度聞こえたそれは、間違いなくパスカルのものだけだった。
彼女はゆっくりと頭を振って、不思議そうにわたし達を見回す。
「パスカル……お前……」
「ん? なに?」
「何も覚えていないのか?」
「何のこと? 覚えてないって」
やっぱりハッキング云々は事実なんだなあとぼんやり思いつつ、そわそわとするシェリアにうんと頷く。
「アスベル。早くおじいちゃんのもとへ行きましょう!」