10.不思議な、場所

「これは……」

扉をくぐると、そこは先ほどとあまり変わらない光景が続いていた。
床から外れればそのまま宇宙に落ちてしまうんじゃないかという不安と、どこか神秘的だと感心してしまう気持ちとが同居して無意識にみんな中央に集まって歩く。

そしてふと、この場所に存在する自分達以外の存在に気付いた。唐突に現れては何かをしてくるでもなく駆け回り、時にじゃれあい、笑い合っては姿を消してしまう彼ら。
それは……かつて、エフィネアの星の核で覗き見たラムダの記憶にあったのと同じ、幼いアスベル達だった。

「な、なんか、変な気分だな……」
「やだ恥ずかしい。なんだって昔の私達なんか……」
「そういうものだ」
「……これも羅針帯の特徴なんでしょうか」

当然照れたように視線を逸らす本人達に代わって、わたしはその光景をひたすらに見つめる。
うん。ラムダの記憶で見たのよりもずっと精巧ではっきりして可愛い。
たまに昔のソフィも交えたそれはわたしですら懐かしく感じる。いきなり大きくなったように見えるけれど、表情の違いとか、いろいろな部分が、ソフィもずっと成長していたのだなと思って、なんだか感慨深い。

「攻撃してくるわけじゃないしいいんじゃない? うあ〜ソフィだ! あのソフィは触らせてくれるかな〜」
「パスカル、ダメ」
「じゃあ今のソフィならいい?」
「ダメ」

パスカルは今でもソフィが好きでたまらないらしい。
なんだか久しぶりの会話に笑みをこぼしつつ、やっぱり視線は子供達から離せない。
それに気付いたのだろう。
アスベルが少し不思議そうに名前を呼んできた。

「シオリ?」
「ううう……みんな可愛い……」
「はは……シオリは安定だな」

いやいやだってアスベル、わたし昔の君達を知らないのだよ?
そう言葉を続けようとして、聞こえた声にぐっと言葉を詰まらせた。

“気をつけろ。お前は影響を受けやすい。”
「え?」

ラムダだ。
頭の中に直接響く、アスベルやソフィ達に向けるのとはまた違う好意を沸き上がらせる声。
わたしを生かしてくれたそれは、今の今までずっと黙ってたのに唐突にそれだけを言って再び沈黙する。

「シオリ?」

アスベルが名前を呼ぶ。
ラムダは器用にもわたしにだけ聞こえるように話したらしい。
アスベルとの会話はわたしにだだ漏れなのだけど……それは体の一部を渡す肉体的な繋がりと、寄生している精神的な繋がりとの違いなのだと、いつだったかラムダが教えてくれた。
それならわたしの方が不便なはずなのだけど……あとはまあ、年季なのだろう。
聞こえなくなった声に一度目を閉じて、先へ行こうと手を伸ばすアスベルの手をとろうと腕を持ち上げた。

「あ、待って……うおっ!?」

ガクンと体が傾く。
なんだと足元を見て、そこに何もないことに気付いた。
そう……“何もない”のだ。
文字通り、そこには床も何も無い。
わたしを囲むように穴が開いて、それは暗い暗い場所へと繋がっている。

「シオリ!」
「危ない!」

ぐっと反射的に掴んだアスベルの手と、わたしを支えようと伸びてきたアスベルと隣にいたシェリアの腕がわたしに絡むのを感じる。
だが何故か、逆らえない何かがいるかのように。
まるでそうであるのが当然であるかのように。
わたし達は、落ちた。