13.いつだって、涙をぬぐいたい

「なにやってるの!」と後ろでシェリアが潜めた声で叫ぶのが聞こえたが、今だけは無視をする。
代わりに目の前にいる幼いシェリアに笑いかければ、彼女は当然ながら不思議そうにわたしを見つめ返した。

「魔法使い?」
「そう! あ、でもまだまだ見習いだから、なんでも出来るわけじゃないけど……」
「そうなんだ……」

幼い彼女は一瞬だけきらきらした目を向けて、それから残念と肩を落とした。
でもやっぱり、こういうネタは好きなようだ。
あっさりと警戒心を解いてしまった姿に少しだけ心配になる……まあ、ちゃんと立派に育つみたいだけど。

「あのね、魔法使いさん」
「なに?」
「私、元気な体になりたい」

真っ直ぐに、幼いシェリアはわたしを見た。
それは間違い無く、病弱だったという彼女の願いだ。
叶わないかもしれないけど、それでも願いたい本音だ。

「アスベルとヒューバートと、街のみんなともっと遊びたい。元気に走り回って、一緒に探検して……おままごとも好きだけど、それよりみんなと一緒にいたいの。どうして、一緒にいられないのかなあ……」

ぐっと俯いてしまう。
たぶん、さっき幼いアスベルたちに断られたことを思い出しているのだろう。
未来に生きていられるか不安、なんだと思う。
……わたしは知ってるから。ソフィに出会って、元気になって、シェリアが大きくなって、わたしとも出会えるって、知ってるから。大丈夫だよって言うのは、簡単だ。
でも……そんなこと、今の彼女にはわからない。
だからこそ、今こうして泣いているシェリアを放ってなんておけなかった。

「シェリア」
「きゃっ!?」

ひょいと彼女の小さな体を抱き上げて、なるべく高いところで固定する。
わたし自身、現代のシェリアより少し小さいのだけど、こうすればそれよりもっと高い場所が見れるだろう。
幼い彼女は軽かった。悲しいぐらいに。でもわたしは気付かないふりをして、そのままくるりと回って、にっこりと笑いかける。

「わたし、こうやってシェリアを抱き上げて走るよ。これならシェリアを連れて行けないなんて言えないし、しかもわたしも一緒に遊べるね!」
「魔法使いさん……」
「ごめんね。今はまだ、これで我慢してほしいな」

あなたの足ではまだ走れないなら、わたしが一緒につれていくよ。一緒なら寂しくないし、むしろアスベルたちよりも楽しく遊べるよ、なんて、明るい声で断言する。
全然、何も叶えられない、魔法使いなんて口ばっかりのものすごく率直な慰め方だ。何も解決していないじゃないといわれたらそれまでだけれど、幼いシェリアは、それだけでも良かったらしい。
いつもと違う景色が見れたからかもしれない。一緒に遊べるという事実だけが嬉しかったのかもしれない。ただ、呆然とわたしを見つめてくしゃりと笑うと、それから堪えられないとばかりに大粒の涙を零す。
いくつもいくつも、シェリアの綺麗な瞳から溢れて零れて、やがて声をあげながらわたしにぎゅううとしがみついた。

「うぇええーん……」
「よしよし。ほら、泣き止まないと。もうすぐアスベル達が君を迎えに来るよ」
「うん、うん……っ」

ぽんぽんと背中を叩いてやる。
それから遠くに見える幼い彼らからもう少しだけ彼女を隠して、せめて泣き止むまではと抱き締め続けた。
彼女が泣き止んで、見つめあって、笑って。下ろして頭を撫でてあげて。
それを合図に、わたしの視界が光でいっぱいになった。