16.十と、二

結論から言おう。
なんとか勝利したけれど、フレデリックさんは強かった。

「行きますぞ! メーニーアールー……ボンバー!」
「数多の刃よここに集え、汝の見る夢刹那と消える……奥義! 百花繚乱!」

シェリアが対抗して発動した秘奥義も、フレデリックさんの仕込み刀の剣技の前では大したダメージを与えることは出来なかった。
どちらかというと、スタミナの差で勝利したようなものだ。年齢からは考えられないほど鋭利な動きを見せていたが、やはり体力の限界があるのだろう。
そうして倒れたフレデリックさんを見てしまえば、戦闘前後の出来事などどうでもよくて今すぐ駆け寄りたくなる。……いや、駆け寄るけど!

「さすがでございます……ありがとうシェリア……坊ちゃん方、みなさん……」
「おじいちゃん……!」
「これで、次のエリアへの門は開かれました。詳しい……方法は……わかりません……」
「もういいフレデリック、喋るな!」
「ですが……坊ちゃんたちなら……必ずや……」

息も絶え絶えに言葉を紡いでいたフレデリックさんの体が、光に溶けるようにして消えていく。
慌ててシェリアが駆け寄るが、彼女の手は祖父に触れられないまま空を掴んだ。

「フレデリックー!」
「そんな……こんなこと……!」

こんなわけのわからないことでフレデリックさんが、と視界がぼやける。
一緒にラントで暮らしだして、シェリアの昔話を聞かせてもらったり一緒に料理なんかを作ったり、これからどう生きればいいかを教えてくれたおじいちゃんだったのに。まだ何も返せてないのに、こんな!

次の瞬間、何事もなかったかのようにフレデリックさんが出現した。

「安心してください。このゾーオンケイジにいる限り、死ぬことはありません。強力な原素とこの場所が、密接に関係しているようなのです」

涙が引っ込んだ。

「よかった、おじいちゃん!」
「これで一安心だな」
「ここは、そういう場所なのです」

にっこりと老執事は笑う。
無理やり理解しなさいとばかりの言葉に、だがそれを簡単に受け入れることも出来ない。よかった、とみんなの空気が一気に弛緩したのもよくわからないけれど、ここはそういう場所なのだと笑顔の圧が飛んでくる。
マリクさんたちの順応性が素晴らしくて、異世界に飛び込んで生活してきたわたしなんてまだまだなんだなあとさえ思った。

「原素……なんて奥深いんだ……」
「こんなことでいいのか? いや、そんなことより、今は世界の危機を救わなくては!」
「……というか、なんでそんなにお強いんですか」

少し投げやりなわたしの質問に、フレデリックさんはまた重そうに口を開いた。

「アストン様を亡くして、私は己の力不足を痛感致しました。そして、今度こそと修行に励んだのです」
「フレデリック……」
「申し訳ありません。私が強ければ、お二人とアストン様は……」
「いいんです。いいんですよ、フレデリック。ぼくは……」

フレデリックさんの話を遮って、ヒューバート君が眼鏡をぐっとかけ直す。
どこか泣いているように見えた彼は、だがすぐに表情を引き締めて背中を向けた。

「さあ、次のエリアに行きましょう。早くフレデリックを解放しないといけません」
「あ……まだ、続くんだね……」