次のエリアに続く扉をくぐった瞬間、わたしはまたあの穴に落ちた。
今度はアスベルとヒューバートくんも一緒である。
「……兄さんとシオリ姉さんは、落とし穴に落ちやすい何かでもあるんですか?」
「そんなことは……ないと思うんだけどなぁ……」
穴の先、雪の積もる道に不時着して、ヒューバートくんは呆れたとため息を零した。
いろいろ言い返したいけど言い返せない。アスベルと顔を見合わせて苦笑してから、今度はどこに落ちたのだろうと辺りを確認する。
前回は過去のラントだったが、ここは雪もあるし明らかに違う。
だが見覚えはあるから、そう……フェンデルであることは間違いない。
「ザウェート……かな?」
「パスカルさんたちアンマルチア族が研究開発したおかげで、生活水準が上がりつつあるそうですね」
以前よりも人々の顔が活気に満ちているのを見て、ヒューバートくんが少し自慢気に言う。
確かに、マリクさんが嬉しそうにそれを報告しにきたことがあるし、なんだったらつい先日までわたしも住んでいたので当然知っていることだけれど……やっぱりパスカルはすごい、と胸を張るヒューバートくんが可愛らしかったので何も言わないことにした。
「……なんでヒューバートが自慢気なんだ? あ、そうか。お前……」
「兄さん!」
「す、すまない。そうだよな。シオリもいるもんな」
「そういう問題じゃ……!」
「……ヒューバート君のパスカルへの気持ちなんて、パスカルとソフィ以外みんな知ってるけどね」
「ええっ!?」
というか、アスベルでも気付けたんだなあと感慨深くなる。
あの鈍くて鈍感で鈍くて鈍いアスベルでもさすがに気付けたのか。
そしてヒューバートくんは気付かれてないと思っていたのか。
顔を真っ赤にして神経質に眼鏡を直すヒューバートくんに、思わず苦笑する。
こういうところはやっぱり兄弟なのかもしれない。
「あれ、そこにいるのは……迷子になっていたお姉さまではありませんか?」
「ん、君は……」
声をかけられて振り返れば、そこにいたのはまだ小さな子供だった。
バーナーだろうか? 大きな機械をリュックのように背負ってわたしを見上げている。
はて、彼は誰だっただろう。
正直あまり見覚えがないから、直接話したことはないだろう。迷子に……迷子になったのは、一年前にラントからバロニアに向かおうとしてグレルサイドに行ってしまった時だけのはずだから……
「……あ、麗しいコックのお姉さんの弟くん」
「はい! ジョーくんです!」
にっこりと笑うジョーくんに、やっぱり! と歓声をあげる。
そうそう、あの時道を教えてくれたコックのお姉さんを迎えにきた弟くんだ。
むしろ覚えてる彼がすごいってくらい、一言も会話してないけどちゃんと覚えてて良かった、と内心胸をなで下ろす。
隣でヒューバートくんが諦めきった目でわたしを見た。
「あなた、本当に誰でもかまわず節操なしにナンパしてるんですね」
「……なんか毒のある言い方だなあ。ちょっとバロニアと間違って来ちゃったときにお世話になったんだよ」
「ああ、あの時か……」
アスベルもいつのタイミングの話なのかわかったらしい。
そういえば、あの後わたしはパスカルと出会って、アスベルたちと合流したのだっけ。懐かしい。確かその時からアスベルを呼び捨てで呼ぶようになったのだ。恥ずかしかったのはすでに意識していたからなのだろうか。
いや、それよりも、確かその前後ってわたし雑魚で迷惑かけて怪我してアスベルに相当怒られた記憶がある。
なんとなくその話題がきてしまうような気がして、わたしは慌ててジョーくんとの会話に戻った。
「というか、もう一年前なのによくわかったね。しかも直接お話ししなかったでしょ?」
「お姉さまがお弁当を渡していたので、心配だったのです」
「あー……うん。とても、今までにない、刺激的な味だったよ……」
グレルサイドでもらった、見た目を裏切る強烈な味を思い出して、遠くを眺める。
あの時ほど自分の治癒力に感謝したことはなかった。
腹痛にも効くんだと感心しながら物凄く感謝した。
だって死んでしまうと思ったもの。
不思議そうに兄弟が首を傾げるのを見ながら、ジョーくんは苦笑した。