ふと、ジョーくんの腕に火傷というか叩かれた痕というか、とにかく怪我があることに気付いた。
シェリアならすぐにそれが何かわかったかもしれないが、残念ながらわたしにはさっぱりなのでとにかく問い掛けてみる。
「どうしたの? 怪我してる。今日はお姉さん、一緒じゃないの?」
「お姉さまはお兄さまとお出かけの最中なのです。これは……ちょっとお兄さまの鍛冶の手伝いで燃えたのと、お姉さまの料理にあたったのとでぺんぺんされただけなのです」
「ぺんぺん……ああ、ぺんぺんか」
たぶん尻叩きとかだと思う。
わたしがジョーくんよりもう少し小さい時に両親にされた記憶がある。
誰もが通る道なんだよなあなんて思っていると、アスベルと一緒に会話を聞いているだけだったヒューバートくんがジョーくんに問い掛けた。
「痛くないのですか?」
「痛いのです。でもお兄さまもやりたくてやっているわけではないのです。お姉さまの料理がマズい事だってわかっているのです。それは本人もなのです」
「だからといって、もうそんな年でもないでしょう。どうしてそのような屈辱に耐えているのですか」
「お兄さまとお姉さまと一緒にいるためです」
ジョーくんはにっこりと笑う。
「お兄さまが世界一の鍛冶屋に、お姉さまが世界一のコックになれば一緒にいられるのです」
「……よくわかりません。どうして世界一にならなければ一緒にいられないのですか?」
「世界一じゃなくてもいいのです。ただ僕たちには夢があるのです。みんなで漆黒の翼という名のお店を作って、一緒にいるのです!」
ふふふふっと笑うジョーくんはとても幸せそうで、本当にお兄さんとお姉さんが大好きなのだとわかる。可愛いなあ。
「それに耐えるというほど大変でもないのです。ぺんぺんも燃えるのも結構楽しいのです」
「……そうですか。弟業も大変ですからね。同情します」
「あなたも弟なのですね! 弟の先輩なのです。嬉しいのです!」
「ジョーくん!」
「お兄さま! お姉さま! それでは、失礼するのです」
通りの向こうに、長いコック帽のお姉さんと髪の毛が特徴的なお兄さんが見える。
ジョーくんが嬉しそうにそちらに駆け出していくのを見送ってから、ヒューバートくんはやれやれとわざとらしく肩を竦めた。
「弟も大変ですよ。特に、世話の焼ける兄姉を持つとね」
「しっかりした弟を持って、兄は嬉しいけどな」
こちらの兄弟も仲良しである。
家族が仲良しだと嬉しくなるのは決してわたしだけではないはずだ。
それに、その、なんか超展開というかカオスというか、展開が原素ハイな状況のせいでわけわかんなくなってたけど、わたしとアスベルは家族なわけだし。
つまりヒューバートくんも家族になるんだし。
改めて思うと照れくさい。
照れくさいのだけど、どうしてもどうしても言いたいことがあったから、笑いあう二人にそっと声をかけた。
「あのね。ちょっと、変なこと、言ってもいい?」
「どうした?」
「お姉さんの帽子、一年前に比べて凄く長くなってた」
その言葉を最後に、わたしたちの目の前が光でいっぱいになった。