19.懐かしき、王の座

視界が開けたあと、普通にみんなと合流できた。どうやらこれは一種の通過儀礼のようなものらしい。
コック帽の長さについても特に言及されることなく、まあそんなものか、とばかりに流されてしまって、それ以上何かを言うことはなく、わたしたちは奥へと進んでいく。
そうして、そこに彼はいた。

「お前はっ!」
「久々だな! アスベル・ラント!」

にたりと笑う彼には見覚えがある。
もう一年も前、まだわたしがエフィネアに来たばかりの頃に戦った相手だ。
アスベルたちと、リチャードと共に最初に行動したあの時の……リチャードの叔父として、彼に殺されたはずの、セルディク大公がそこにいた。

「誰ですか兄さん」
「リチャードの叔父のセルディク大公だ……しかしあなたはリチャードに殺されたはず!」
「だが、天は私を見放さなナナナナナナナナ」

突然スピーカーが壊れたように動きを止める。
なんだなんだと彼を見るが、詳しく考えるよりも先に剣を振り回してきた。

「様子がおかしいぞ!」
「ユルサン! キサマラララララヲコロス! ワタシハハハハカイゾウサレテ帰ッテキタゾ!」

な、なんかスッゴくよくわかんないけど、とりあえずセルディク大公に向かって武器を構える。
彼の動きは、一年前のそれとあまり変わらないらしい。
いくらか強くなったのかもしれないが、これでもフォドラクイーンとだって戦ったのだ。決して負けたりはしない。

「全力で……行かせてもらう! こいつも! 持ってけ! エクスパシオン!」

ヒューバートくんの銃撃をもろに受けて、セルディク大公はその場に倒れ伏した。
体の節々からは機械になった中身が見えていて、これも大輝石竜が行ったことなのだろうかと目を伏せる。
バグったように揺れる声は、苦しみに満ちていた。

「コロシテクレ……クルシイ……モウイヤダ……ウガガガガガガ!」
「くっ!」
「これは……」

だらだらと液体が零れる。
まるで血のように溢れるその液体を見て、ヒューバートくんは武器をしまった。

「ここは一思いに……」
「いえ、涙を流している相手には、せめてもの情けを……」
「これが涙だというのか……!」
「はい。ぼくはそう信じます」
「甘い男だ……だが、それもいい」
「しっかり、油の色をしているが……」
「アスベル、しっ!」

なんだかマリクさんとヒューバートくんが盛り上がってるので、アスベルの脇を小突いておく。
完全に、どう見たって、油が漏れているだけだけれど、それはそっと心にしまっておこう。なんか、ロボットの敵にも心はある、と悲しみながらも戦う主人公とその仲間みたいな空気になってるし。盛り上がってるみたいだし。

「それにフレデリックの言った通りだとすれば、殺してもまた復活する。さあ、次の十芒星戦士です!」
「クルシイ……クルシイ……」

ああでも、でも。
やけにすっきりとしたヒューバートくんの背景に流れる大公の声が、非常にシュールで、この場にあってなくて。
いつもならツッコミ役だったヒューバートくんのやたらときらきらとした目に、ため息が零れてしまう。

「ヒューバート君も、もう……」

原素ハイ。恐るべし。
……帰りたくなってきたな。