20.繋がる、思い

「なんか、慣れてきたね」
「そうだな。さすがに慣れてきたな」

一層進むごとに穴に落ちるのは、どうやらこの空間においてはお約束というやつらしい。
ただ毎回、アスベルとわたしの他にも巻き込まれて落ちてくる仲間がいるから、ちょっと申し訳ない気分になる。
今回はソフィだ。彼女はきょろきょろと辺りを見回して、そこが全く未知の場所ではないこと……ウィンドル王都バロニアであることを確認して、改めて首を傾げた。

「ここ、バロニア?」
「そうかも。時間も別に、昔って感じじゃないけど……どうすれば戻れるのか、いまいちわかんないんだよね」
「そうなんだ……」
「リチャードのところに行ってみよう。きっと力になってくれるはずだ」
「うん。……あのねシオリ。リチャードのところに、わたしの秘密基地があるんだよ」
「秘密基地?」
「うん。リチャードとわたしで作ったの」

アスベルには内緒なんだ、とこそこそと教えてくれた彼女に頬を緩める。
ああなるほど。最近ちょっと親バカこじらせてたから、避難場所を作ったってことだろうな。
思わず苦笑してしまうが、ソフィを構いたいアスベルの気持ちも嫌がるソフィの気持ちもわかるので、何とも言えない。

「そっか。十芒星戦士のことが片付いたらまた行くの?」
「うん。そのためにも、フレデリックを助けないと……」
「何かお困りのようだね」

すっと割り込んできた声に一瞬身構える。どことなく聞き覚えがあったが、くぐもったようなそれに思わず警戒してしまったのだ。
声はリチャードのものだった……と思う。だが警戒して良かったような気もする。顔を青いマフラーのようなもので覆って立つ姿は、正直、怪しかった。
だが声は間違いなくリチャードだ。

「あ、あなたは?」
「リチャ」
「私はマスク・ド・バロニア! 何か困り事なら力になろう!」
「は、はあ?」

リチャードと呼ぼうとしたわたしを遮って、彼は高らかにそう名乗った。
え、えーと? もしかして、変装してお忍びで城下に出てるとか、そんな感じ?
確か、マスクなんたらとかいう本があったような……それを参考にしたのかな。たぶん訳あって変装してるつもりなんだろう。正直バレバレだとは思うけど、なんだか少し子供っぽくて可愛いなあなんて思う。

「マスク・ド・バロニア? わたしたちを助けてくれるの?」
「ああ。私は君たちの味方だからね」
「アスベル、すごいよ。知らない人なのに助けてくれるって」
「ああ。素晴らしい人だな!」

……えーと。
アスベルとソフィのそれは素なのか本気なのか……どっちなんだろう。

「わたしたち、戻らなきゃいけないところがあるの。でも、戻り方がわからないの」
「それくらいお安いご用さ。来た時の道を辿ればいい!」
「な、なるほど!」
「そっか、そうしたら迷子にならないね!」

衝撃を受けたように二人は驚く。
……どうしよう。二人のこういうとこも好きだけど……ツッコミは得意じゃないからシェリアを呼びたい。今すぐに。

「いや、その来た道がわからない……」
「役に立ったようで良かった。また何かあれば呼ぶといい。さらばだ!」
「あっ待ってくれ! あなたは!」
「私はマスク・ド・バロニア! 君たちの味方だ!」

そう高らかに笑いながら、リチャ……マスク・ド・バロニアは去っていった。
その背中を見送って、アスベルとソフィは瞳を揺らす。

「行っちゃった……」
「マスク・ド・バロニア……一体、何者なんだ」

真剣な顔でそう呟く。いや、うん……うん、そういうとこも可愛いし好き、なんだけどね?
どうしたらいいだろいと黙り込んでしまった間に、ぽわ、と体が輝き出す。

「……うん。帰れそうだね!」

もう何も考えないことにした。
きっとここは、そういう場所なのだ。