21.異界の、宝石

無事に羅針帯に戻ったわたしたちは、やっぱりそれ以上何が起こるわけでもなく、スムーズにみんなと合流した。
基本的にわたしたちがいない間はただ羅針帯を進むだけらしく、ちょっとつまんないんだ〜とはパスカルの談。

「あれ……あなたは?」

広間に出たところで、ぽつんと一人の少女が立っていることに気付く。黒い髪を二つに結って、すらりとした細い足を惜しげもなくさらしている。
美脚系黒髪美少女はわたしたちに気づくと、にっこりと笑った。

「わたしはコハク=ハーツ。あなたたちもここに連れてこられたの?」
「いえ、私たちは……」

ぐー
音が響いた。この音は聞き覚えがある。前はよく授業中とかに鳴って、それで恥ずかしいなあとか思ったりした、あの、お腹が空腹を訴える音。
それを鳴らしてしまったらしい本人……コハクちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「ご、ごめんね……ここにきてからまともに食事してないから……」
「そうだ、何か食べる? 君が食べたいものを持ってるかもしれない」

アスベルがそう問いかけると、その隣でシェリアがむ、という顔をした。
ちらりとわたしを見て、それからじとりとアスベルに視線を移す。

「なんだか……優しいのね」
「俺は別にそんなんじゃ……」
「ホントになんでもいいの?」
「あ、ああ」
「キュウリ持ってない? ミソはあるんだけど、肝心のキュウリがないの」

キュウリ。なんだか久しぶりに聞いたなその単語。エフィネアの食べ物は地球によく似ていたけど、地球にあってエフィネアにはない食べ物もたくさんある。キュウリはその一つだった。
キュウリが好きなんだな、と思うとなんだか親近感がわいた。

「キュウリ? ……それはちょっとないな」
「それじゃ、スルメイカは?」
「ごめん……それもないんだ」
「そっか……ううん、気にしないで。しょうがないわよ」

申し訳なさそうにコハクちゃんがはにかむ。
アスベルは力になれなかったのが悔しいのか眉を下げて、視線も下がってる。うん、アスベルが優しいなんて知ってましたし……うん。視線がどこにあるのかわかりませんし、知りませんし、わたしも見てますし。
なんだかもぞもぞと湧き上がる感覚を見ない振りして、わたしはコハクちゃんに笑いかけた。

「キュウリにミソ、スルメイカ……なかなか渋いね」
「でも美味しいよ。ミソはちゃんとあるんだけどね……」

まさかのマイミソ所持って。
名前といい、この子はわたしと同じ世界の子なのだろうか。

「ところで、君はどうしてここへ?」
「わたし、ずっと大切にしていたある人の形見をスピルメイズでなくしちゃって……ずっと探していたんだけど、その途中、光に吸い込まれてここまで来ちゃったの」
「形見?」
「うん。それを見つけたらこれまでいた場所に戻ろうと思ってるんだけど……」

まあ、戻れるのかもよくわからないけど、と困ったように笑う。実際に困っているのだろうけど、とりあえず聞こえてきた単語的に違う世界出身だと言うことがなんとなく察せられたので、わたしは素直に困った顔も可愛いな、と思うことにした。
一方で、恐らくそれを手助けしてあげようと思ったのだろう。身を乗り出したアスベルに、だがシェリアがじとりと睨んだ。

「アスベル……私たちの目的忘れてない?」
「わ、わかってるよ。それで……俺たちは大輝石竜とやらの奴の所に行かなきゃならないんだ」
「あ、そうなんだ。それじゃわたしと戦うんだね? うん、いいよ。それじゃ、行くね!」