うなぎ。
ウナギ科の魚。体は細長くぬるぬるしている。漢字で書くと鰻。
エフィネアにも存在しており、特にグレイル湖産は高級品となっている。
そして今。
空に浮かぶ羅針帯の中で、わたしたちは目の前で直立二足歩行しているウナギに出会っていた。
「いや……なんていうか……かわいい目、してるね……」
「動揺しても口説こうとする努力は認めよう」
マリクさんに冷静につっこまれた。
どうしよう、なんだか悔しい。……じゃなくて、目の前に立つ今度の十芒星戦士は、うなぎだった。
にょろりと高い背丈は見上げるほどで、その姿は魔物のジェントルマンに少し似ているかもしれない。だがうなぎだ。「お、おっきいな……」と感想を零すアスベルに、そのうなぎは優しい瞳を向ける。
「教官。この人はジェントルうなぎっていうみたい」
「ジェントルうなぎか……確かに大きいからな」
「なんで大きいと紳士なんですか……」
「え、なあに?」
誇らしげな瞳をするジェントルうなぎに、ソフィは何度も頷く。
……わたしも、つい違う言葉に反応してしまって一度流してしまったけど、なんでソフィはジェントルうなぎの言ってることがわかるんだろう……
「うん、うん」
「なんだって?」
「ジェントルうなぎさんは、グレイル湖産のうなぎなんだって」
「グレイル湖産か。高級うなぎじゃないか」
「ちょっと待て、ジェントルうなぎ」
突然飛んできたマリクさんの鋭い声に、思わずジェントルうなぎがたじろぐ。
それはわたしたちも同じだ。
反射的にマリクさんを見ると、彼は珍しいくらいに真剣な様子で、それこそ戦いの時にしか見せないような気迫をもってジェントルうなぎを睨み付けている。
「グレイル湖産と言ったな? オレの目を甘くみたか? お前はグレイル湖産ではない! この産地偽装ジェントルめ!」
「え、産地偽装!?」
驚くアスベルに、ジェントルうなぎは瞳を伏せる。
「……そんなことはない。産地表示は確かだって言ってる」
「嘘を言うな!」
「ていうかよくわかりましたね、マリクさん。ジェントルうなぎさん、なかなかいい色艶してるのに」
あまり魚類は詳しくないからあれだけど、ジェントルうなぎだけど、直立二足歩行してるけど、まあうなぎとしてはいい色艶をしているように思う。
だがマリクさんは絶対の自信と確信を持ってジェントルうなぎを糾弾し、そして武器を構えた。
「オレの目はごまかせんぞ! 産地偽装は悪だ。くたばれ!」
戦闘が始まる。
もうわけがわからないけれど、一応このジェントルうなぎも十芒星戦士らしいから、戦うのは運命なんだろう。いや、ぴよぴよといい、ちょっと人選がおかしいな。適当に人数揃えましたってこと?
「誇りを抱いて永久に眠れ、塵となり無へと散れ! エターナル・セレナーデ!」
なんて考えている間に終わってしまうほど、勝負は圧勝だった。
ジェントルうなぎはまるで陸上を泳ぐように多彩な動きを見せたけれど、輝術と近接戦闘とを使い分けて動くマリクさんには適わなかったらしい。
倒れたジェントルうなぎは再び立ち上がると、涙混じりの瞳でソフィに訴える。
ソフィもまた、涙ぐみながらその言葉を通訳した。
「うん……うん。わたしは知らなかった。従業員が勝手にやったことだって言ってるよ」
「いずれ真実は白日のもとにさらされる。覚悟しておくことだな」
そう語るマリクさんの背中はいつもより大きく見えた。
何故かわからないけど。たぶん、その場の雰囲気だけど。
それでも全員がその背中に息をのみ、そして感動していた。
「やったね、教官」
「うむ」
……あと、話が変わってしまうのだけど。
魚類って、結構つぶらな瞳をしているんだなあと思った。ぎょろっとした眼が苦手という声もあるけど、このジェントルうなぎのしょんぼりとした目はすごく可愛い。
戻ったら、動物図鑑とか魚図鑑とか見てみよう、なんて、思った。