33.これからも、たぶん

「ついにあたしとアスベルとシオリの三人きりだね!」
「うん、そうみたい……」

もう数えるのも面倒な落下の被害者は、わたしとアスベルとパスカル。
パスカルは前回来たときは他の女性陣も一緒だったからって、何故か小躍りしている。
一方でわたしのテンションは低い。
なんかわからないけど、頭が痛いのだ。重くて、ずんと痛みが居座っている感じ。

「どうした、シオリ? なんだか調子が悪いみたいだ」
「いや……なんか頭痛くって……」
「羅針帯は原素が濃いからね。薄いところと行ったり来たりしてて、ちょっと体調崩しちゃったのかも」
「そうなのかな。そしたら、アスベルも気をつけないとね」
「そうだな。でも今はシオリだ。無理せず休んでいいんだぞ。なんなら背負ってもいいし」
「それは恥ずかしいから嫌だよ!」

おんぶされて歩くのは、結構恥ずかしい。
いやまあ確かに、ドキドキするなんたらではあるんだろうけど、それ以上に恥ずかしいしそれに、ちょっと……シェリアやソフィと比べたらちょっと……重いから……
とにかく話題を変えたくて、わたしは一つ咳払いをする。
それから辺りをよく見れば、やっぱり見覚えのある場所だった。

「にしても、今度はアンマルチアの里なんだね」
「ちょうどいいや。パスカル、族長さんにお願いがあるんだけど」

そう言って、アストンさんの剣の話をする。
もしかしたら直せるんじゃないか、ぜひ修復を頼みたいのだがと伝えれば、興味深そうに話を聞いていたパスカルは両手をあげて笑った。

「それは興味深いな〜あたしも見たい! ばばさまの技術、見たい!」

あまり見れないんだ、ばあさまの技術! と言うやいなやわたしたちの腕を掴んで、すぐに族長さんのとこへと駆けだした。
軽い足取りで彼女を訪ねると、族長さんもやはりアンマルチアらしく、自分の技術を試せることが楽しみらしい。二つ返事で了承して奥へと引っ込んでしまった。
もちろん、その現場は見せたくないという族長さんの意見でパスカルは見れなかったのだけど。

「原素の剣の修復、完了しました」

やがて族長さんから剣を預かったポアソンちゃんが、それを持ってやってきた。
彼女の手に乗せられているそれは、鞘の装飾も直されたらしい。以前より輝いてみえるそれを受け取ったアスベルがゆっくりと剣を引き抜く。
刃こぼれしていた剣はすらりと伸びる美しい刀身を取り戻していて、周りの光を反射して凛とそこに立っている
あまり剣に対して美しいと感動したことはなかったけれど、わたしも思わず感嘆の声をあげるほどに強く美しい剣がそこにあった。

「すっごーい! これ、伝説の剣なんでしょ? 直しちゃうなんてさっすが長だね。あ〜あたしも見てみたかったなぁ」
「お年を感じさせない長の腕……うちは感動しました」
「これが原素の剣、エクスカリバー……親父の剣」

パスカルたちが頬を赤らめて言う隣で、アスベルはゆったりとした動作で刀身を撫でる。
それは少し緊張していて、でも込み上げてくる何かを堪えようとしているように見えた。

「リチャードの指輪で開く……王家から託された、昔はがむしゃらに振り回してたけど……ありがとう、みんな」

ふにゃ、とアスベルが笑う。
赤らんだ頬が、きっとアストンさんを思い出しているのだろうと思った。
あまり仲は良くなかったらしいけど、もっとちゃんと話したかったと言っていたアストンさんの剣。
そこから何か、アストンさんの気持ちを感じたのだろうか。だとしたら嬉しい。
わたしはアスベルの手に触れて、それから剣を握る。

「これがアストンさんの剣か。うん。素敵だね」
「ああ。素敵だろ。俺の……俺の自慢の親父の剣だよ」

だから、もっとたくさん話したかったよ。
そう微笑んだアスベルは少しだけ泣きそうで、でも晴れ晴れとした表情だった。