34.姉の、矜持

次の階層に進むと、待っていたのはやはり見覚えのある人物だった。
すらりとした美人。白から毛先にかけて赤くグラデーションのかかった髪の毛のアンマルチア。そう、パスカルのお姉ちゃんのフーリエさんだ。

「お姉ちゃん!? どうしてここにいるの?」
「こっちが聞きたいわ。どうやら大輝星竜とかいうのに連れてこられたみたい。そうだパスカル。頼んであったノパーソを持ってきてない?」
「ううん、実はね……」

ノパーソの名前を聞いて、そういえばもともとはフレデリックさんからノパーソを返してもらいにきただけだったんだよなぁと思い出す。
何故か空に拉致されたフレデリックさんを追いかけて、戦って、落ちて、戦って、なんか知らない美少女にも会えて、うんあの子は本当に美脚だった。あれで蹴られるのはなんだか嬉しくなりそうで困る。あ、いや、そうじゃなくて。
なんだか思考がぐらぐらしてしまうと、こめかみに手を当てながらため息を吐く。
その間に説明を終えたパスカルに、フーリエさんは少し残念そうに肩をすくめた。

「そういうことなのね。それなら私と戦うしか方法はなさそうね」
「でも、お姉ちゃんと戦うなんて……」
「何、戦えないの?」
「そりゃそうだよ」
「あら、ひょっとしてもう勝った気でいるのかしら?」
「違うけどさ〜でも実際に戦ったらあたしたちが勝つよ」
「本当にそうかしら? あなたたちにと思って作った機械があるのよ」

ふっふっふっと笑って、フーリエさんはポケットから小型の機械を取り出した。

「これよ! 名付けて転送装置!」
「なに転送すんの?」
「これはどんなところにもヴェーレスを呼び寄せる装置よ」
「どこでも呼び寄せるの!? へえ、すごい。もっと見せてよ!」
「なら戦ってみるといいわ。でも簡単に勝てると思わないでよ」
「しょーがないな。じゃあ、いくよ、お姉ちゃん!」

あっさりと構えたパスカルを前に、フーリエさんが転送装置のスイッチを押す。
すると、数秒もせずに懐かしいキメラ……ヴェーレスが姿を現した。

「おお、本当にきた!」

異世界科学の力ってすげー!

……いやそんなこと言ってる場合じゃない。
フーリエさんはパスカルと同じ、杖銃を使った戦闘を行うみたいだ。
ヴェーレスは以前戦った時と変わらないし、いつもパスカルの戦いを見ていたのだから、気を抜かなければ倒すのは容易だ。

「蒼海の神姫、未知なる道を切り開け! シアンディーム・エクシード!」
「きゅぴーん! 紅蓮の豪腕、突貫でドッカーン! ブラドフランム・アサルト!」

二人の秘奥義がぶつかって、そのままフーリエさんが吹き飛ばされる。
しばらくして復活したフーリエさんは、残念そうに壊れた転送装置を見た。

「研究ばかりではダメね……あーあ、転送装置、壊れちゃったわね」
「あ、ごめん」
「別にあなたたちにあげようと思っていたから怒らないわよ」

ひらひらと手を振って、仕方ないとフーリエさんは笑う。

「ところでさ、お姉ちゃん。ノパーソってなに?」
「ノパーソっていうのは、小型の英知の蔵だと思えばいいわ」
「そんなもの作ったの!?」
「使い方を教えておくわね……」

ちらちら聞こえてくる単語は、どこかノートパソコンを連想させるものだった気がするけど……まあ、そういうこともある、のかな。
なんだか懐かしい気持ちに浸っている間に、パスカルはノパーソの使い方を覚えたらしい。バッチリと言って歩き出したパスカルに続いてみんなが移動したのを見て、わたしは最後に頭を下げた。

「ありがとうございました」
「いいのよ。それにしてもさすがね。一度教えただけで覚えちゃうなんて……適わないわね」

そう苦笑した彼女は、やっぱり、妹が大好きなお姉ちゃんだった。