35.父親の、思い出

「え、えーと。はじめまして。シオリといいます」
「そうか。私はアストン・ラント。君は、旅人かい?」

いつもの落下で着地に失敗し、道端ですっころんでいたわたしに手を差し伸べた男性が穏やかに笑う。
アスベルに似た髪と瞳。でも、どちらかというと童顔に入りそうなアスベルとは違って、しっかりと大人の顔した男の人。
うむ、間違いなくイケメンだ。しかもしっかりと強い瞳から察するに、素直に愛情を表現できず誤解されがちな……あ、いや、そうじゃなくて。

彼が名乗った名前に遠くの木陰に隠れたアスベルとヒューバートくんが、あわあわと取り乱すのが視界に入る。
やっぱり、彼がそう……二人のお父さん、なんだ。
そういえば前も時代を超えて、可愛い小さなシェリアに会ったなあ。
でもこれがアストンさん。アスベルたちのお父さん。わたしがもう会えない人。
なんとなくこのまま別れることは避けたくて、わたしは先ほどから浮き足立つ街を見ながらアストンさんに問いかけた。

「なんだか、街が賑やかですけど……今日は何かお祭でも?」
「嬉しいことに、昨日私の息子が生まれたんだ」
「えっ!? そうなんですか!?」
「二人目でな。上の方も弟から離れない」
「うわあ、なにそれ可愛い! きっと二人とも、アストンさんに似て素敵な人になりますよ」
「だといいな」

本当は知ってるけど。うん、あなたの息子たちはとっても素敵な人です!
穏やかに穏やかに、幸せそうに微笑むアストンさんに、わたしも思わず笑顔になる。

「幸せに、生きてくれたらいい」
「大丈夫ですよ」

あのね、アストンさん。わたし、エフィネアにきてずっと不安だったんです。
だって違う世界だし、なんでここに来たのかもわからなかったし、戦うなんて、恐怖以外の何でもなかったから。
でもずっとわたしを守ってくれて、怒ってくれて、手を繋いでくれて、わたしが死んでたとしても仲間だって言ってくれて。
……わたしの家族に、なってくれた、素敵で一番大好きな人がいるんです。
あなたが幸せを願って愛した息子さんに、わたしは救われたんです。
これからも一緒に生きていきたいんです。

「絶対に幸せにします」

しっかりとアストンさんを見て、はっきりと言葉にする。
もちろん彼は、そこに込めた意味なんてほとんどわからないけれど。でも、言いたかった。ちゃんと、伝えたかったのだ。
アストンさんは少しきょとんとして、それからやっぱり穏やかに笑った。
そのままアストンさんと別れて、ずっと様子をうかがっていただろう未来の息子たちのところに行く。
二人の顔は真っ赤だった。

「……僕はここにピンポイントで落とされたことを恥ずかしがればいいのか、姉さんに恥ずかしがればいいのか、とても複雑なのですが」
「ヒューバートくんお誕生日おめでとう」
「はあ、どうも。まあ……あんなに幸せそうな父さんが見れるなんて、珍しいですし。良しとします」
「そうだな……シオリ」

わたしの名前を呼んだアスベルは、出会ったときと変わらない、大好きな笑顔で笑った。

「絶対に幸せにするからな」