6.まだ、慣れなくて

ラント邸前の噴水広場に来れば、そこにはすでにシェリアとケリーさん、そしてフレデリックさんが待っていた。
どうやら一人行ってしまったソフィを心配していたらしい。
予定よりも多くやってきたわたし達に少し驚いた後、にこやかに出迎えてくれた。

「シオリさん、いらっしゃい。……あ、もうお帰りなさいの方がいいのかしら?」
「こんにちはケリーさん。これからよろしくお願いします」

深々とお辞儀をする。
前にアスベルとラントをまわった時に話はしていたのだが、やっぱり気恥ずかしいしちゃんとしておきたいし。
それがおかしかったのか、シェリア……つい先月に救護団の仕事を終え、ラントに使用人として戻ってきた……はくすくすと笑う。

「うふふ、シオリだけじゃなく、パスカルと教官も一緒だなんて……あ、いけない! バナナパイは作ってなかったわ」
「ほう、鯛茶漬けはあると」
「デザートの話ですよ。鯛茶漬けはデザートと認めません」
「そうか……」

どことなく落ち込むマリクさん。
うん、みんな何も変わっていないようだ。

「あ、シェリア。フレデリックいる? お姉ちゃんから頼まれ事しててさー」
「フーリエ様から、ですか?」
「あ、いたいた。あのさ、ノパーソってやつをフレデリックに貸してるから、それを返してほしいって」
「の、ノパーソですか?」

パスカルに問われて、フレデリックさんは何故か少し戸惑ったようだった。だがすぐにいつもの落ち着いた態度になると、一度礼をする。
……フレデリックさんに用事ってそれか。フーリエさんから物を借りてるなんて、なんかちょっと意外かもしれない。

「し、少々お待ちください。今、持って参ります……それから、アスベル様も呼んで参りますね」

言われて、確かにアスベルがいないなと気付く。
きょろきょろと探してしまうと、シェリアがそっと耳打ちしてきた。

「アスベルったら、今日が待ち遠しくて、朝からバタバタしてるのよ」
「そ、そうなんだ……」

ど、どうしよう。
そんなこと聞いたら、今更だけど恥ずかしくなってきた。
そうだよ、私今日からアスベルの……か、家族に、なるわけで。
これからずっと一緒に暮らすわけで……うわあヤバい、なんかドキドキしてきた。
思わず頬に手を当てて冷まそうかと思っていると、バタリと扉が開く音がする。
アスベルだ。
彼は相変わらずわたしが好きな笑顔を浮かべると、嬉しそうに名前を呼んだ。

「シオリ!」
「ア、アスベル。ええっと……」
「その、シオリ」
「は、はい!」

強く名前を呼ばれて思わず答える。
するとアスベルは少し照れくさそうにコメカミを掻いて、それからふわりと微笑んだ。

「……おかえり」

おかえり。
たぶんなんでもない言葉。
でも、もう今この時からわたし達がそういう関係なのだと言ってもらえたみたいで。
わたしは自然と緩んでしまう頬を抑えられないまま、ふにゃりと笑った。

「うん。ただいま」

ほわ、と胸が暖かくなる。
ああヤバい、幸せ、だ。

「なんだか、前よりもモダモダして見えるのは気のせいか?」
「いやぁ、でもちゃんとアスベルから動けるようになったし……」

そんな外野の声は、聞こえないふりで。