「アスベル!」
緩やかに談笑していると、不意にソフィがアスベルに駆け寄ってきた。
落ち着いているようでどこか焦るようなそれに、アスベルは彼女の頭を撫でながら問いかける。
「ん? どうした、ソフィ?」
「あのね、お空……」
「空?」
言われてみんなで空を見上げようとして……それより早く、何かが庭へと落ちてきた。
土煙をあげて落ちてきた物体は、影からして3つほどだろうか。
庇うようにして前に立ったアスベルの肩越しに目を凝らす。
だんだん晴れていく視界に見えたのは……3つの人型、だ。
「空から人!? え、第二のわたし?」
「よくわからないこと言ってないの!」
「おお! ヒューマノイドだよ! 調べてみよっと」
楽しそうなパスカルの声に、なるほど確かにあの特徴的な服はフォドラのヒューマノイドと同じ物だと気付く。
フォドラから落ちてきたのだろうか……少し考えるが当然答えなどわからない。
それどころか、近付いたパスカルに反応してヒューマノイドがガタガタと動き出した。
手に武器を装着したのを見て、わたしは慌てて後ろで様子を見守っていたケリーさんを屋敷の中に押しやる。
「危ない! ケリーさん逃げて!」
「そのヒューマノイドやばいぞ! 動きを止めるんだ!」
街中で暴れられたら困る!
そうみんながそれぞれの武器を構えて戦闘を開始すれば、地上に落ちて既にダメージを負っていたのだろう。
あっさりとヒューマノイド達は機能を停止させた。
「今のヒューマノイド、フォドラのと同じだよ」
「フォドラから降ってきたのかしら?」
「あっちの世界とこっちの世界の重さを考えると、それはなさそうだけどな〜」
「そうなの? それじゃあそうなると空にあるのは……うぇええっ!?」
「どうした? シオリ……あ、ああっ!?」
空を見上げたまま動きを止めたわたしに、みんなも空を見上げては驚愕の声をあげる。
……さて。もうご存知の通り、わたしはこの世界とは違う世界からきた人間だ。
しかもわたしはもう死んでいて、ラムダのおかげで生きている状態。うんうん、この一年での旅も驚きの連続だったし、信じられないようなこともたくさん経験した。
だからもう、驚くような現象なんてもう、起こらないって思っていた。思っていたとも。
「おじいちゃん!?」
「あわわ……アスベル様〜、シェリア〜!」
……そんな言い訳をしてみたけど。
フレデリックさんがぷかぷかと空に浮いているのを見て、驚かずにいられるか。
「フレデリック、何をしてるんだ!」
「フレデリック、お空飛べるようになったの?」
呑気に首を傾げるソフィに、いつもなら可愛いって言いに行くのだけど、正直今は空に浮いたままのフレデリックさんの方がインパクトあり過ぎてなんのリアクションも出来ない。
なんというか、今にもUFOに攫われていこうとしているというか、恐らく混乱しているのであろうが、黒いノートパソコンみたいな物を持ちながら手をぱたぱたと動かしている姿が、唯でさえおかしな現状を更におかしく見せているというか……なんだこれ。
「ちょっと……教官! ソフィ! フレデリック、今助けるからな! 待ってろよ!」
「あ! フレデリックが持ってるのって、ノパーソ? ノパーソぱ〜す!」
「で、出来ません……あわわ、あわわ……」
「もう! なんで返してくれないんだよ〜!」
「そ、それどころじゃないって。屋根か何かに上がってフレデリックさんを……」
「あ、おじいちゃんが!」
「も、もう、無理です! 耐え切れません!」
な、なにが耐えきれないんだ。
というか耐えていたのか。
混乱して思わず立ち止まってしまえば、次の瞬間にはフレデリックさんは高く高く空へと連れ去られていく。
「ア〜ス〜〜ベ〜ル〜様〜!」
そんな悲鳴を引きずって、キラリ。
彼は空の向こうへと姿を消した。
「フレデリックーーっ!!」
「フレデリックさああああん!?」
「フレデリック、お星様になっちゃったね」
「空に消えたが……空に一体なにが……」
「あ、羅針帯じゃないかな? エフィネアを囲っている装置だよ」
「どうやってその装置へ行けば!?」
「シャトルで行けばいいんじゃない? ちょっと調節すれば出来るはずだよ」
「よし、その間にヒューバートにも連絡して行くぞ!」
「お〜! ノパーソ取り戻すぞ〜!」
なんだか心配なのかそうじゃないのかわからないような空気で、とにかく羅針帯を目指そうと各々準備を始める。
わたし、わりと順応性高いと思ってたんだけど違ったかな……
「……おじいちゃん。待っててね!」
切実な響きを持ったシェリアの呟きに、何故かとても安心した。