「そんな……なんでこんな酷いこと……!」
慌ててジーニアスの家を確認しに行くと、やっぱりそこにも火の手が回っていた。
ううん、そこだけじゃない。あの綺麗なぶどう棚も、よく子供たちが駆け回っている道も、あちこちに火が投げられていた。誰がやったのかは、すぐにわかる。ディザイアンだ。彼らがあちこちに火をつけて、壁を壊して、村を荒らしているのが見えた。
学校などいくつかの建物は無事だが、それでも村のほとんどが炎に包まれて、黒い煙がごうごうと立ち昇っている。
……この景色に近いものを、昔に見た。けれどあれは、戦争だったから。一般人を巻き込みながらもお互いに剣を持ち、戦っていた。でもこれは……ただの、一方的に虐げるだけの、行為だ。逃げ惑う声がする。戦いの、抵抗の音は、どこからもしない。
凄惨な光景に、思わず自分の胸元をぐっと握り締める。悔しさか恐怖か、体を震わせる感情が何かはわからない。
ただ、見慣れた景色が全く違うものに変わってしまったことがショックだった。
「ボクたちの家が……せっかく故郷になりそうだったのに……こいつら、何でこんなことするんだ!」
「とにかく早くみんなを避難させて追い払おう!」
言うやいなや、ロイドは真っ先に駆け出していく。行先は学校だ。どうやら何人かがそこに避難しているようで、門番さんが震えながらディザイアンと対峙しているのが見えた。
ロイドは素早く魔神剣を放ち注意をそらすと、そのままディザイアンを昏倒させる。わたしとジーニアスも、隠れていた人たちを学校に誘導するために走り出した。
「ロイド・アーヴィング! 出て来い!」
その怒声が聞こえたのは、数人を学校まで送り届けた頃だ。広場の方。やたらと響く声が、ロイドの名を叫んでいる。
どうしてロイドの名前を、と思うけれど、考えている暇はない。この要求に応えない理由はないからだ。ここはもういいと礼を言う青年に頷いて、わたしたちは広場へと向かう。
そこではまだ、何人かの人たちがディザイアンに囲まれて震えていた。中には子供や、村長の姿もある。怪我はなさそうだけれど、いつ彼らに手を出されるかわからない。ロイドはその間に割り込むと、キっと睨み付けた。
「また、村を襲いに来たのか! いい加減にしろ!」
「何を言ってるんだ?」
「戯言だ、放っておけ」
一人の男が、悠々と歩いてくる。ディザイアンたちが未知を開けて、その男に首を垂れる。
眼帯をつけたその男は、左腕に重々しい機械を付けていた。義手、なのだろうか。義手というよりも素直に兵器のようにも見える。わからない。けれど、ああいったものはシルヴァラントに来てからは見たことがなかったから、純粋に驚いた。
どうしてそんな技術がこの世界に? もしかして、ディザイアンというのはああいう兵器として使える技術を持っている? マナを多く消費する牧場というのは、もしかして、現代では失われた魔科学なんかを研究する実験場だったりするのか?
いろいろと疑問が浮かぶけれど、目の前の男からこれ以上気をそらすことはできない。彼は、広場にいる人を一瞥すると、強く声を張り上げた。
「聞け、劣悪種ども。我の名はフォシテス。ディザイアンが五聖刃の一人。優良種たるハーフエルフとして、愚劣な人間どもを培養するファームの主」
「……ハーフエルフ?」
「ロイドよ! お前は人でありながら、不可侵契約を破る罪を犯した。よって、貴様とこの村に制裁を与える」
「契約違反はそっちも同じだろ! 神子の命を狙ったくせに!」
ジーニアスの反論に、フォシテスとディザイアンは顔を見合わせる。
それから、まるで面白い見世物をみたように、彼らが愚劣だと見下す人間を心から嘲るように、声をあげて笑った。
「我々が、神子を? ふははは! なるほど、奴らが神子を狙っているのか」
「奴ら? コレットを襲った連中とお前たちは違うって言うのか?」
「劣悪種に語ることは何もない。それより貴様だロイド。貴様が培養体F192に接触し、我らの同士を消滅させたことはすでに照会済みなのだからな」
ロイドの顔を見た奴らは倒したと聞いていたけれど、どうやらしっかりとバレていたらしい。ロイドが目撃者に気付かなかった、というよりは、あの義手なんかを見るに、監視カメラに近い技術があそこには存在していたのかもしれない。
でも今、重要なのはどうしてバレたのか、ではない。ロイドが……正確にはわたしとジーニアスもだけど、人間牧場の中に入ったことが、この場にいた村長たちに知られてしまったことだ。
青ざめた表情で村長がロイドに詰め寄った。
「なんということだ! 牧場には関わるなとあれほど念をおしたのに!」
「……ごめん」
「貴様の罪に相応しい相手を用意した!」
フォシテスの声と共に、何か大きなものが村に入ってくるのが見える。
それはそう、一言で言うなら、化け物だった。
見上げるほど大きな体は確かに人の形をしている。だが、ヒト型、とは、思いたくなかった。灰色のぼろきれを緑色の体に引っ掛けて、ぐんにゃりとひしゃげた長く奇怪な腕をずるずると引きずる。顔の中心に埋まった石のような何かが、どくりどくりと脈打っている。目がないから前が見えていないのか、それとも歩くこともままならないのか。ぐらぐらと体を大きく揺らしながら、のそりのそりと歩いてくるそれを見て、わたしは思わずヒッと悲鳴を零した。
昔、自分の世界にいた時に見たホラーゲームに出てくる怪物のような、異形のそれ。
恐ろしい、と一目見ただけで後退りしてしまうそれに、ロイドといた村長も、腰を抜かして這い蹲りながら逃げ出した。
わたしも逃げたい。けど、それは明らかにロイド目掛けて近付いてきている。その腕を振り上げて、攻撃しようとしているのがわかるから、逃げられない。
「……なんだ、こいつは!」
「さあ、引き裂かれるがいい!」