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「大変なことをしてくれたな。見ろ! この村の惨状を! お前のせいだ」

未だ立ち尽くすわたしたちに、村長が怒りに満ちた声色で叫ぶ。
ディザイアンが撤退したことで、生き残りの人たちはみんな広場に集まっていた。
まだ、あちこちに小さな火は残っている。それでもきっとみんなの無事を確認しようとして、焼けて落ちた村の中にみんなが集まってくる。その中にはわたしたちが避難させた人たちもいたけれど……その数は、いつも見かけていたそれよりも、ずっとずっと少ない。
それが、この一連の騒ぎがどれだけのダメージをイセリアに与えたのか物語っている。わたしたちがしたことがどれだけのものだったかを、訴えてくる。

「ごめん……なさい」
「謝ってすむ問題じゃない。奴らはお前を敵と認定した。お前がいる限りこの村の平和はないのだ……わかるな?」

村長の言葉に、それまで項垂れていたジーニアスが庇うようにロイドの前に出た。

「ちょっと待ってよ! それってロイドを追い出すってこと?」
「そうだ」
「そんな! ロイドは悪くない。ただマーブルさんを助けただけなのに……」
「牧場に関わる全てが禁忌だ。例外はない!」
「じゃあ、村を守るためなら人間牧場の人は死んでもいいの!?」
「どうせ牧場の人間なんて、あそこで朽ち果てる運命じゃないの」
「そうだ。余計なことをしなければ、死ぬのはそいつだけですんだのに」

間髪入れずに返ってきた言葉に、わたしたちは言葉を失う。
……わかっている。わかっているのだ。
イセリアが結んでいる不可侵契約はそういう意味だって、わかっている。
あの牧場の中で苦しむ人たちのこと見て見ぬふりをすることで約束された平和だって、わかっている。
それによって得た平穏の中で生きてきたわたしたちに、それを非難する資格はない。わかっている。
でも、でも。……でも、そんな言い方は、あんまりだ。誰かの犠牲の上で成り立っている平和の中にいるのだからこそ、言ってはいけないことだ。
ジーニアスも絶望しきったように、だがやるせない怒りを堪えるように肩を震わせている。

「そ、そんな言い方……ひどい」
「……人間なんて、汚い」
「もうよせ、ジーニアス。今回のことは確かに俺が悪かったんだ」

ぽんと、今にも再び涙を零しそうな親友の肩を優しく叩いてロイドは微笑む。
明らかに無理やり作ったとわかる表情で、けれどわたしたちのようにうつむくことも、泣きだすようなこともせずに。僅かに震える体を誤魔化すように深呼吸して、村長に頭を下げた。

「……出て行きます」
「村長。こんな子供にそこまで厳しくしなくても……」
「何を言ってるんだ。こいつのせいでたくさんの人間が死んだんだぞ!」

すぐに怒声で掻き消されてしまったけれど、擁護しようとしてくれた人がいる。場違いだけど、それだけで嬉しかった。
嬉しかったけれど、わたしたちだって諦めたくない。
すぐにジーニアスとわたしで、ロイドを守るように村長に前に立って詰め寄った。

「ロイドは悪くない! 牧場に誘ったのはボクだ。だからボクが悪いんだ!」
「わたしだって、二人が牧場に近付くのを止めませんでした! 止めなかったわたしの責任です!」
「それでもディザイアンが狙っているのはロイドだ。それにロイドはもともと村の人間じゃない。ドワーフに育てられた、よそ者だ」
「だったら、ボクも出て行く! ボクも同罪だ!」
「わたしも! ……わたしも、よそ者ですから」
「ジーニアス、ナギサ、お前ら……」

だから出て行きます、と言って頭を下げる。
そうすれば、村長だって止める言葉出てこない。仕方ないといった風に深く息を吐いて、大きな声でそれを宣言した。

「……ならば仕方ない。村長権限でここに宣言する。ただいまをもって、ロイドとジーニアス、ナギサを追放処分とする」

ロイドは深く村長に頭を下げる。ジーニアスもそれに倣うと、どこかから出て行け! という声がした。
最初は控えめで、誰かがやめなよと言ってくれていたけれど。その怒声は次第に広がり、気付けば村中が出て行けと声をあげていた。

……わかっている。みんな、これ以外に、できないのだ。泣いている人がいる。怒っている人がいる。みんな、みんな、急に平穏を奪われて。命を奪われて、家を奪われて、誰かを責めずにいられなくて。わたしたちに、ロイドにそれをぶつけることで、なんとか崩れ落ちないように踏ん張っている。
だから、投げつけられる言葉に言い返すことなんてできない。その声を浴びながら、わたしたちは門へ歩いていくしかない。

そうして広場から離れて、見えてきた村の門のところで、ファイドラさんとフランクさんが立っていた。
傍らにはノイシュがいて、彼は心配そうにロイドに擦りよった。

「迷惑かけて、すまなかった」
「その気持ちがあるのなら、どうか神子さまを追いかけて守ってやっておくれ。そうすることで世界が救われれば、きっと皆の気持ちも変わるじゃろう」
「コレットも……それを願っているはずだ」
「……ああ、償いはする。俺のせいで亡くなった人のためにも、必ずコレットを守るよ」
「ボクはロイドについて行くよ。ロイドが追放されたのはボクのせいだもん。だから……ずっとついて行くから」

一歩、門の外へと足を踏み出す。追放されて村を出るなんて二度目だ。そういえばあの時も、ああして出て行けと言われたんだっけ。
……人間もエルフも、変わらない。ハーフエルフじゃなくても、その場所にとって遺物だと思われたのなら、有害だと認定されたのなら、容赦なく追い出される。何も変わらない。
四千年前と、何も、変わらなかった。

「なあ、ジーニアス。そのエクスフィアはお前が装備しろよ。マーブルさんの……形見だ」
「うん……」
「要の紋の使い方はゆっくり説明するよ。どうせ……長い旅になるしな」
「そうだね……」

静かに、暗く沈んだ声で、けれど彼らは倒れることなくしっかりと前へと歩く。
その後ろを追いかけながら、わたしもまた、三つめの故郷になりそうだったその村に背を向けた。

……これが、本当の始まり。
長い長い、旅の始まり。