「じゃあ、ナギサさんは、別の世界からやってきた、ってこと?」
数日後、熱がようやっと下がったところで、わたしは様子を見に来てくれたロイドくんたち四人に、これまでのことを最初から説明した。
どうやらこのイセリアの近隣では戦争なんて起きていないようだったし、そもそもがまったく知らない場所にいるみたいだし。中途半端に話すよりも、最初から「わたしは別の世界から来ました、その後出会った姉弟と旅をしていました、戦争に巻き込まれて怪我をしたところで記憶が途切れています」と説明した方がいいだろうと思っての行為である。
話しながら、彼らと出会ってもうすぐ一年だったんだなあ、とか。懐かしくなって、寂しくなって、ちょっと泣きそうになってしまったせいだろうか。
初めて聞いた人には信じがたいだろう話を、四人は真剣に聞いてくれている。
「……するともしかしたら、嬢ちゃんは今度は時間を越えたのかもしれないな」
「時間?」
「そっか。たとえば大昔の時代から来たって考えれば、今は存在しない国境のことや、イセリアを知らないこととかも説明がつくね」
「どういうことだ? ジーニアス」
「つまり、ナギサさんはボクらのいるこの時代より、ずーっと昔の時代に異世界からやってきた人間なんだ。今度は世界じゃなくて、時間を移動してきちゃったんじゃないかってこと。だから最近の地理を知らないし、昔はあった国の名前が月の名前になったとしても知らない。もしかしたら、あの怪我をしたのが原因でここに来ちゃったのかもね」
わかりやすくまとめてくれたジーニアスくんの仮説は、一応、そうかもしれないと信じてもいいと思えるものだった。
シルヴァラントという世界に、テセアラという月の名前。
またしても違う世界に来てしまったというわりには聞き覚えのあるそれらは無視できない。どれくらい時間を超えることになったのかはわからないけれど、その間に国が滅びたり興ったり、大地の地形が変わったりしてもおかしくない。
一度異世界トリップ、なんてものを経験してるせいもあって、その説を受け入れることに抵抗はなく、むしろしっくりとくる気がした。
「そっか……ここ、もうあの時代じゃないんだ……」
「でも、そしたらナギサさんはこれからどうすればいいのかな。おうちに帰りたくても、帰れないよね」
「なんなら、おめぇさんもうちの子になればいいんじゃないか?」
「え?」
「まじ? 俺、姉ちゃんって欲しかったんだよなー!」
あっさり。あっけらかんとそんなことを提案されて、きょとりと首を傾げる。
それはいいアイデアだね、とばかりにダイクさんとロイドくんとコレットちゃんが盛り上がっているけれど、わたしはまだついて行けていない。
そっか〜時代越えちゃったか〜まだミトスくんとマーテルさんが生きていたりしないかな〜って考えていたくらいなのだ。そんなどんどん情報を更新されてもすぐには飲み込めない。
うちの子に。姉ちゃんって欲しかった。
ええと、となんとか飲み込んだ情報は、つまり、かつて二人がわたしに手を差し伸べてくれたように、困っているなら一緒に暮らそう、と言ってくれているということ、らしい。
「え、でも、そんなご迷惑……」
「気にすんな。ロイドだって俺の子供じゃねえが、息子だぜ? 今度は娘が増えるだけでぇ問題ねえ!」
「そうそう!」
「いいなあ、ナギサさんはロイドのお姉さんになるんだね。ジーニアスもロイドもお姉さんがいて、楽しそう」
「じゃあコレットも親父の子になろうぜ。そうしたら、ナギサはコレットのお姉さんにもなるし!」
「そういう問題じゃないでしょ……ていうか、まだお姉さん、何も答えてないよ」
どうにも彼らは善良というか、こちらが困ってしまうくらいに純粋というか。わたしが一つを飲み込む前に、どんどんと話が進んでしまうので、ちょっとだけ気圧される。
でも本当に、彼らが言っているのは、すべて善意だ。一人で暮らすことは難しいだろうから、一緒に暮らしましょう、と手を差し伸べてくれている。もともと義理の親子が二人で住んでいるのだから、ここにもう一人増えたって構わない。そして、それを彼の友人だって、楽しそうでいいねというくらい、受け入れられている環境である、と。
前回の時も思ったけれど、基本的に「異世界」という見知らぬ場所で、異端者である人間が一人で生きていくのは非常に難しい。
みんなにとっての当たり前を知らないから、人に迷惑をかけるか騙されるか、そのどちらかの行動ばかりしてしまうし。エルフのように魔法が使えるわけでもなければ特別な技術を持っているわけでもないので生活もままならない。まったく戦えないというわけではないが弱いし、一人で野を駆けて生きるのも向いていない。
であれば、どうしたってわたしは、一緒に生きてくれる誰かを見つけないといけないのだ。そして、その「誰か」は、とても貴重なものである。だってみんな、自分のことでせいいっぱいだから。誰かに躊躇なく手を差し伸べてくれる人は、とても尊く珍しいものであると、あの旅でよく学んだ。
だから、今わたしの前に提示されている選択肢なんて、実質一つだけ。
あの二人が差し伸べてくれた手を、今度は違う人が差し伸べてくれていることに感謝して、その手をとるだけ。
ふわふわした会話にため息を吐きながら、ちらちらとこちらを見ているジーニアスくんがに笑いかけて、わたしは頭を下げた。
「……お言葉に甘えさせてもらいますね。これからよろしくお願いします」
「いいってことよ。それより、そんな堅苦しい口調は無しの方向でな」
「……うん。えっと、ダイクおじさん」
「おう!」
ぐっと、ダイクさんと握手をする。
ミトスくんとマーテルさん以外の人の手にこうして触れるのは、なんだかとっても久しぶりな気がした。