砂漠の囲まれたオアシスを中心に、トリエットという町は存在していた。
すべての文明は水のそばにできる、なんて聞いたのは歴史の教科書だったか。ここまでの道のりでほとんど人を見かけなかったけれど、トリエットの町では多くの人が賑わっているのが、町に入る前からもわかった。
突きつけてくる日差しにくらくらしながら、ようやくたどり着けた、と息を吐いた時。町の広場に数人のディザイアンがいることに気付いて、わたしたちは慌ててノイシュの影に隠れた。
ぴったりとくっついて、早く馬小屋に行けとばかりに押してくるわたしたちにノイシュは少し嫌そうにしていたけれど、今だけは許してほしい。そうしてなんとか隠れながらディザイアンの様子をうかがうと、彼らは何やら簡単な打ち合わせをしているようだった。
「フォシテスさまからご命令だ! ロイドという人間がエクスフィアを持って逃走中。認識番号は不明」
「ロイドとはどんな奴だ?」
「手配書に似顔絵と特徴がある。詳しくはそちらを見てくれ」
町の掲示板に紙を貼り付けて彼らは去っていく。
おそらく貼り付けたそれが、彼らの言った手配書だろう。
「手配書とは本気だね」
「早くコレットたちに合流しないと」
「おかしいなあ。コレットを守るために追いかけてるのに、これじゃまるで助けを求めてるような……」
「細かいこと気にしないの! もう、どうでもいい時だけ頭使うんだからさー」
「……手配書って、もしかしてこれ?」
いなくなったのを見計らって掲示板に近付いて、わたしは首を傾げた。
そこには間違いなくロイドの名前が書かれた紙が似顔絵付きで貼られている。なるほど手配書。なるほどなるほど。
でも、絵は少し……いや、かなり変だ。
輪郭はぐにゃりとして、髪の毛も適当だがなんとなく特徴が掴めているのがまたおかしい。そして何より全体的に間抜けな印象を受ける。果たしてこれで、本当にロイドが手配書に描かれた人物だと、みんなわかるのだろうか。
「……俺、こんなに不細工か?」
「まあ……これなら見つかる可能性は低い……かな」
「そ、そうだよな。……ったく。せっかくの二枚目が台無しだぜ!」
「そうかな? ボクは結構似てると思うけど」
「へっへっへっへ……ジーニアス、面白いこと言うねえ」
「じょ、じょーだんだよ」
「……ぶふっ」
なんとか前向きになろうとしたロイドをからかうジーニアスに、思わず噴き出してしまってから、とりあえずコレット……というか、再生の神子様についての情報を集めようと町を歩くことにする。手配書は、まあ、あんまり気にしなくていいだろう。たぶん。
トリエットは近くに牧場があるわけではないからか、比較的ディザイアンの被害は少ないらしい。あくまで他の町と比べて、という話だけれど、それでも十分安心できるからか、話しかけた人たちは優しく情報を教えてくれる。
それでも、たまにやってくるディザイアンの被害に憤慨しては、不可侵契約のあるイセリアが羨ましいと、崩れた家の壁を直す男の人がため息を吐いたのを聞いて、ちょっとだけ複雑な気持ちになった。
「ほらここ。見てくれよ、この壁。ディザイアンにやられたんだよ。あいつら、面白半分に町を壊しにくるんだ」
「ひどい。血の跡まである」
「この穴も? ……いや、これは……もしかしなくとも……」
「ああ、すごいだろ? それは再生の神子さまの人型だ。いつか観光名所になるぞ!」
ディザイアンに壊されたという建物の隣。まだ真新し壁にくっきりと残る人型の穴は、非常に見覚えがある。
イセリアの学校にも同じものが出来た瞬間を見たのだし、間違いない。間違いないが、なんだかどうコメントしたらいいかわからなくて、わたしたちは顔を見合わせた。
「……うん。コレットが来たことは間違いないみたいだね!」
「そうだな! わかりやすくて助かるぜ!」
「……穴を開けるのは癖なの?」
「まあ、よくあることっていうか……そうだ。癖といえば、やっぱりコレット、旅立ちの時、無理してたのかも」
突然ジーニアスがそう言い出して、ロイドと二人で首を傾げる。
どうやら旅立ちの朝、彼女がとても無理をしていたのではないか、と言いたいらしい。わたしたちは違う時間を伝えられたせいで、その時の様子のことは知らないけれど……村中の人に見送られながら、彼女は笑顔で旅だって行ったのだと言う。
「ロイドもナギサもいないのにやけに明るかったからさ」
「そういやあいつ、嘘を吐くとき、やけに白々しいっていうか、愛想笑いするんだよな」
昔からの癖みたいなもんだよな、と言ったのはロイドだ。
仲良しイセリアトリオは、きちんと相手の癖まで認識しているらしい。
それがちょっとだけ羨ましいと思ってしまったけれど……でも、同時に、それだけお互いのことを見てきた三人の絆に、眩しいものも感じて頬が緩む。
いいな、そういうの。わたしも、ミトスくんとマーテルさんのことだったら少しはわかる自信あるけれど、どうだろう。ここまで自信を持って言えたかな。二人ともお人好しで、すぐに相手を優先して、優しくて、強がりで、でも本当は誰かに甘えるのが大好きな子で……だからわたし、彼らと一緒にいたかった、んだけど。
自分たちを置いて行ったわたしのこと、どう思っているかな。悲しいって、寂しいって、思ってくれるだろうことはわかるけれど……泣いてなかったらいいな。
懐かしい気持ちになりながら、それを振り払うように首を振る。今わたしたちが守るべきはコレットだ。どこか二人に似た、けれど二人とまったく違う、可愛い笑顔の可愛い女の子。
はやく追いつかなくちゃね、とわたしたちは情報収集を続けた。