息苦しい。
どろどろとした黒い何かが、首に絡みついている感覚がする。
ぎゅうぎゅうと締め付けてくるそれに、息を吸うことも吐き出すこともできなくて、ぐるぐると何か重苦しいものが胸の内に溜まっていく。
苦しい。苦しい。苦しい。ごめんなさい。反射的に謝った。
ごめんなさい。殺してしまって。
ごめんなさい。約束を破って。
ごめんなさい。ごめんなさい。
あなたのそばにいられなくてごめんなさい。
殺した時の、殺された時の、あの感触が。
今もまだ、鮮明に残っている。
「…………あ、」
はっと目が覚めた。
夢を見ていたような倦怠感と息苦しさに起き上がろうとして、まるで初めて心臓が動き出したかのように激しく脈打ち始めた。
ここはどこだろう。
硬い。床に寝かされている。当然毛布も何もない。冷たい床の感触は、どこか懐かしい感じがする。不安になって自分の腹のあたりを撫でれば、そこには触り慣れた帯の感触がして、わたしは少しだけ肩の力を抜いた。
けれど、見知らぬ場所に寝かされている事実は変わらないし、体がまだ怠いことも事実である。これからどうしよう、ととりあえず深呼吸をすることで心を落ち着けようとしていたところで、傍らにロイドが眠っているのに気づいた。
そうだ。わたしたちは、ディザイアンに捕まったんだ。
だとすると、ここは牢屋だろうか。ロイドと一緒に放り込まれて、今は放置されている、というところか。視線だけを動かしてみると、ロイド以外の人はいない。ジーニアスは、たぶんうまく逃げ出せたのだ。
「そうなると、あのロイドってやつも可哀想だな」
「そうだな。処刑は免れないだろう」
少し離れたところから聞こえて来た会話に、ごくりと息をのむ。
処刑? 処刑って、あの処刑?
さーっと血の気が引くのを感じる。いったい誰が話しているのか知らないが、おそらく監視のディザイアンだろう。もしかしたらこれから彼は護送されて処刑されるのかもしれない。
そんなこと、絶対にさせてはならない。ダメだ。
わたしは急いで、けれど監視に騒がれないように慎重に起き上がると、まだ眠っているロイドを揺り起こした。
「ロイド。ロイドったら。……ロイド!」
「うわっ?」
どうしても大声は出せないので、代わりにぺしんと額を叩けばロイドは飛び起きる。
これはこの半年ですっかり当たり前になった朝の風景のままだ。
それでも旅に出てからはちゃんと自分で起きていたから、ロイドは久しぶりのそれに驚いたという顔をしている。あまり緊迫感がない。
でも、起き上がって辺りを見回せば、自分のみに起きたことはすぐにわかったのだろう。表情を引き締めると、彼は声を潜める。
「あれ、ナギサ……ここは……ディザイアンの基地、か?」
「わかんない。とりあえず、早く出ないと処刑されちゃうかもって、さっき話してた」
「なんだって!?」
素早く辺りを見て、牢越しでも腕を伸ばせば届きそうなところに鍵があることに気付いた。開けるのはスイッチを押すだけでいいようだが、見張りがいてはそんな行動に出るわけにはいかない。
騒ぎを起こすにも、彼は今丸腰だ。服装の一部と判断されて取り上げられなかったわたしの帯と違って、彼の武器はしっかりと没収されていた。
「くそっ鍵を開けようにも、警備のやつが邪魔だな……ん? これは……」
わたしが攻撃をしてもいいけれど、こちらは逃げ場がないし、不用意な戦闘は避けるべきである。何か状況を打破するものはないかとポケットを探っていたロイドが、何かを取り出した。
それは指輪だ。小さな指輪。けれどロイドの指にも問題なく入りそうなサイズで、小さな石がついたシンプルな指輪。
「なにそれ?」
「ソーサラーリングだよ。マーテル教会の神器? だっけ? なんだってさ」
「……なんでそんなもの持ってるの」
「神託の時に必要で借りて……返しそびれちゃって……」
「……まあいいや。それでなんとか出来るの?」
「ああ。ここをこうして……そりゃっ」
「うわっちちち!?」
石の部分から飛び出した火が、見張りの背中に火をつけた。
突然背中が燃えれば、当然みんな驚く。ディザイアンだってそれは同じだ。彼が慌ててどこかへ走って行くのを見送って、思わず両手を叩く。
「すごい。火が出るんだ」
「ほらな! 持っててよかった!」
「……ロイド」
「わ、わかってるよ……」
旅が終わってからでいいから必ず返しに行こうねと約束してから、鍵を開けて外に出る。
他に見張りはいないらしい。ザル警備すぎる。助かった。
別の場所にまとめて置かれていた荷物を回収して装備すると、よし、と両頬を叩いて気合を入れる。
とにかく、出口は絶対にどこかにあるはずだ。監視に見つからないように気を付けながら、わたしたちは出口を探して駆け出した。