24-2

ディザイアンの基地と思われるここは、なんというか、とても近未来的だった。
どこを見てもシルヴァラントらしくないというか。でも昔のテセアラとも違うというか。かといって、わたしのもともと暮らしていた世界のそれともちょっと違う。確かにいろいろと機械化はしていたけれど、こんな風に、壁まで機械みたいに冷たかったりエネルギーらしき光が走ったりしていない。どちらかというと、近未来のSFやファンタジーの世界の物語を見て、わたしがイメージするような施設、と呼ぶ方が近かった。
けれど、自動ドアやコントロールパネルなんかは二年ぶりに遭遇した「わたしの世界」らしいもので、なんだか懐かしくて泣きそうになる。

もちろん、シルヴァラントにこんな技術はない。
前の時代の魔科学も、あまり関わってないから知らないがここまで発展していなかったように記憶している。だから……だからとっても、不思議な場所、だった。魔法の世界とはかけ離れたものばかりだし、かといってわたしの身近にあったものそのものというわけでもないし。わたしでも操作できるような仕掛けもあれば、まったく知らないものもある。
それでも、おそらくメインコンピューターにあたるだろう大きな機械の操作には、プログラミング用の特別な言語を使っているわけではなさそうだ。よかった。これなら、専門知識のない一般人のわたしでもまだ弄れる。近くの扉のロックを解除しながら、なんとも複雑な気持ちでいると、ロイドは後ろで感心したように声をこぼした。

「なんだここ。見たことない機械がいっぱいだな」
「わたしの世界には、似たようなものもあったけど……うーん、やっぱり違うな。変な感じでむずむずする」
「へえ。そういえば姉さんのもともとの世界のことってあんまり聞いたことないな」
「する必要もなかったからね〜……ちょっと待って」

いろいろと機械を弄っているうちに再生された映像を見て、慌てて一緒に影に隠れる。そうすれば、数分も経たずに近くの扉が開いた。巡回しているのだろう彼らが、そのままこちらに気付くことなく出ていくのを見て、わたしたちはほっと息を吐いた。

「……よかった。でもここ、監視カメラもあるんだな。結構すぐに逃げたのバレちゃうかも。ええと、地図、地図……」
「うーん……なあ、なんかさあ、あいつら、なんか違う感じがしないか?」
「イセリアを襲ってきたディザイアンとは感じが違うって言いたいの?」
「そう! それ! なんか違うんだよ。こいつら何者なんだ?」
「わかんない……けど。コレットやロイドの命を狙ったことは、間違いないと思うんだけど」

表示された地図を確認して、さっきわたしたちが来たのはあっちで、ときょろきょろと辺りを伺う。どこも似たような風景でよくわからない。
でも地図くらいならロイドも読めるので、二人でああだこうだと話し合ってから、こっちだ、と走り出した。
それにしても、ここのディザイアンたちはどことなくおとなしいというか、なんというか。さっきロイドが言った通り、イセリアを襲った彼らとは何かが違う気がする。具体的にどうこう、とは説明できないし、結局追いかけ回されていることに変わりはないのだけれど、なんだか落ち着かない。
それにこんな技術を平気で扱えるわけだし……ディザイアンって、本当に何者なんだろう。ただの悪いハーフエルフの集団、という言葉だけでは片付けられないような気がするんだけど。

「あ〜だめだ、出口わかんねえ……ジーニアス、来てくれねえかなあ……」
「頑張ってよ……」
「お前ら!」
「げっ」
「ロイド、こっち!」

地図の読み方を間違えたかもなあ、と思って二人で肩を落としていると、真っ正面からディザイアンが走ってくるのを見て、慌てて近くの小部屋にロイドを連れ込む。
飛び込んだその部屋は、今までとは雰囲気が違っていた。
メカメカしい内装が続いていたというのに、ここには律儀に絨毯が敷いてあるし、色のせいか温かみを感じる。大きな机は、たぶん書類整理をするものだろうか。書斎、という表現が一番近いのかもしれないが、観葉植物まで置いてあるせいで、どちらかというと誰かの私室のような印象を受けた。

「ふー、危なかった」
「何者だ!」

背後から鋭く咎められて、二人してそちらを振り返る。
明らかに警戒を込めた目でわたしたちを見るのは一人の男性だった。
わたしよりいくつか年上くらいだろうか。長い髪を一つにまとめたその人は、手のひらに電撃を集中させて、今すぐにでも打ち出せるのだと威嚇してくる。
これは変なごまかしも反撃も無理かな、とロイドと顔を合わせて肩をすくめた。
だが彼は素直に答えることはせず、逆に挑発的に答えた。怖いものなしである。

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るもんだぜ」
「ははは! いい度胸だな! しかし、貴様のような下賤な輩に名乗る名前は、あいにく持ち合わせていない」
「奇遇だな。俺も、自分がいやしいってことを知らないような能なしに、名乗る名前はないぜ」
「貴様……!」

ごめん。こんな時だけど、ロイドが「いやしい」って単語を知ってたことに感動してしまった。彼は学校の勉強は苦手だけれど、こういう時の返しがとっても軽快で、地頭の良さをうかがうことができる。
なんて言っている場合ではない。ロイドが少しでもダメージを減らそうと、両腕で顔を覆って衝撃に備えた時、相手の男はその腕についていたエクスフィアを見るなり攻撃の構えを解いた。

「そのエクスフィア……! まさか貴様が、ロイドか」
「……だったら?」
「……なるほど。面影はあるな」

男はそれまでの攻撃の姿勢を解くと、ロイドの顔を観察するようによく見つめる。
誰の面影を探しているのだろう。もしかして彼は、ロイドの両親のことでも知っているのだろうか。
考える間に、警報が鳴り響いた。
それに注意が逸れた隙に、ロイドと男を引き剥がそうと帯をしならせる。もちろん、攻撃はあっさりとかわされてしまったが仕方ない。目的はロイドとの距離を開かせることなので達成だ。

「その帯……だが、まさか!?」

このまま彼をおいて逃げよう、と背後の扉を開こうとしたが、それより先にバタバタと慌ただしい音を立てて、数人のディザイアンたちが部屋の中に入ってくる。
挟まれてしまった、どうしよう。焦るわたしの視界の端で、男の顔は再び驚きに見開かれて、信じられない、とばかりに声を震わせたのが聞こえた。