「あちー……疲れたー」
「ほら。やっぱりバテてる」
火の封印とやらはあの占い師さんが聞いた通り、トリエットの町からさほど離れていない旧トリエット跡にあるらしい。
かつてイフリートの業火で滅んだオアシスと言われるそこは、今も遺跡としてその姿を保っており、大半が砂漠の砂に埋もれてしまっているが、かろうじて見える石柱などは、確かに今のトリエットなどでは見られないような模様が刻まれていた。
無事に目的地までたどり着いたけれど、やっぱり砂漠を歩くのは厳しい。わたしももうくたくただ。最初は意気込んで先頭を歩いていたロイドもがっくりと肩を落としていて、ジーニアスに笑われている。
「もう砂漠は飽き飽きだぜ」
「素晴らしい!」
「……先生?」
てっきりロイドの態度を諫めるかと思ったのに。ドンとロイドを突き飛ばしたリフィルさんは、彼のことなど目に入らないとばかりに勢い良く地面に埋もれた遺跡の一部へと駆け寄る。
もちろん、遺跡とはいえ、封印の場所とされているだけあって、中に入ることは簡単にはできない。周りと明らかに色の違う部分は、たぶん地下に続くだろう扉なのだろうけれど、当然閉ざされている。……だというのに、そこに這うようにしがみついたリフィルさんは、明らかにいつもと違う声色で声を張り上げた。
「見ろこの扉を! 周りの岩とは明らかに性質が違う。くくくく……思った通りだ! これは古代大戦時の魔術障壁として開発されたカーボネイトだ! この滑らかな肌触り……見事だ」
遺跡の入り口、しかも地下へのものだからへばりつく姿勢で、鼻息荒く頬摺りする美人の図。
まとめると非常におかしい。ものすごくおかしい。リフィルさんが、おかしい。
なんというか、非常に愉快だ。マニアの図だと思えば理解はできるけれど、普段の颯爽としたイメージと違いすぎてまるで別人のよう……というか、別人でいてほしいと思ってしまうくらい、何かがおかしい。
思わず全員で呆然としていると、ジーニアスが顔を覆ってうなだれた。
「……ジーニアス……誰、あれは……」
「ああ……隠してたのに……」
「……いつも、こうなのか?」
「いや、わたしのイメージはもっと、クールビューティーなイケてる女教師って感じで……いやでも、ちょっと兆候はあったようなないような」
「そう……なのか?」
「……村でも、家にいるときはああだったよ……」
遠い目をしている弟や、明らかに戸惑っているわたしたちには目もくれず、リフィルさんは嬉しそうに遺跡を撫でまわす。
おもむろに傍らにあった石版に目をやると、それを恍惚とした表情でじっくりと眺めなたかと思えば、突然鋭くコレットを呼んだ。ついていけない。
「ん? この窪みは……神託の石版と書いてあるな。コレット、ここに手を当てろ。それで扉が開くはずだ」
「ほんとかよ」
「これは神子を識別するための魔術がほどこされた石版だ。間違いない」
リフィルさんに促されて、コレットは石版の窪みに手を当てる。すると、涼やかな音が鳴って石版が光ると同時に地下への入り口が重い音を立てて開いた。
なるほど。さすがはマニア。いや、考古学者を自称するだけあって、洞察力も素晴らしい。確かに何か神子を識別する方法がなくちゃ封印を解くことなんてできないもんね。墓荒らしみたいな人がいないとも限らないし、識別するための魔術が施してあるというのはそれっぽい。
今後は封印がありそうなところで、この石板と同じものを探すのがいいのかも。
「おおー」
「開きました! ……すごい! なんだか私、本当に神子みたいです」
「みたいじゃないでしょ、もー」
「よーし! ワクワクしてきたぞ! 早く中に入ろうぜ!」
「……その集中力が続けばいいがな」
ロイドの飽きっぽさがついにクラトスさんにまで心配されている事実に苦笑しつつ。
わたしたちは一つ目の封印がある、旧トリエット跡の遺跡へと足を踏み入れた。