「なるほど、火を扱ったトラップか。この原理は……」
遺跡の中に入っても、彼女のハイテンションは変わらなかった。いや、むしろ高くなっているかもしれない。砂の下で直射日光がない分、体は楽な気がするけれど、結局暑いことに変わりないのに、すごいパワーである。
わたしたちは今、戦闘においてはコレットを中心とした一軍メンバーの四人と、帰りの道、彼らが傷付いた時のために控えている二軍メンバーとに別れて中を進んでいる。
チームを分けているけれど、別行動をとるわけじゃない。なるべく体力とを温存させておくために二軍メンバーはしばらく戦闘には不参加、というだけだ。
そしてその二軍メンバーにはわたしとリフィルさんが選ばれているのだけど……うーん、戦闘時よりも動き回っていて、帰りまで体力がもつのだろうかと心配になる。むしろむしろ帰らせてもらえるかな。あちこちの壁に触って離れたがらないリフィルさんを適宜引き離しているわたしはすでに疲れてきたのだけれど、それを眺めるコレットはのんびりと笑うだけだ。
「先生、元気だねぇ」
「同じ二軍メンバーとして不安なんだけど……」
「そもそもだナギサ!」
「はいっ!?」
何度目かの壁からの引き離しの直後、勢いよくこちらを振り返ったリフィルさんにがっしりと両肩を掴まれる。
びっくりした。リフィルさんは美人なので、怒ると非常に迫力がでる。今は怒ってるわけではないのだろうけど、それでも迫力ある顔と強い口調で詰め寄られると、もうそれだけで泣きたくなった。わたしが弱すぎる。
「昨今は魔科学と科学を同一視してしまっている学者が多いのだ。純然たる科学と違い、魔の力を利用する魔科学には未だに解明されていないエネルギーといえ、」
「ああえっと、わたし、あくまで一般人だったので魔科学はちょっと専門外で……」
「魔科学の発明者、研究者はどのようにしてこの技術を発展させたのだ? 貴様がいた時代ではどのような発展レベルだった? 貴様の使用文字から時代は割れている! むしろこの場で古代文字を訳せ!」
「ああああえっとえっと、人間とハーフエルフによって発展して戦争の技術に使われたってことしかわかんないですすみません! 助けて!」
わたしが使用していた文字は古代大戦時代のもので間違いないらしいが、わたしはもちろん魔科学に明るくないし触れたことすらほとんどない。確かにあの時代は戦争に使われる魔科学がマナを大量消費していて、大樹カーラーンが枯れそうだったということは知っているけれど、それだけだ。戦争の詳しい理由も知らなければ、魔科学とやらの具体的な事象は見たことがない。
そもそも、あの当時見たものがそのまま伝承されているなんて限らない。だって、わたしのミトスくんとマーテルさんと似たような似てないような、なんともいえない勇者と女神の伝説が当たり前に広がっているし。時代と共に曲解されていったのか、それとも本当に二人が勇者と女神になったのか。何も知らないのだ。
本当に。何もわからないんです先生。許して。
そんなにがっくんがっくん揺さぶらないで。
「……お前は古代文字に明るいのか?」
助け舟のつもりだろうか。クラトスさんがそう問い掛けてきたのを聞いて、わたしはリフィルさんから逃げるようにしてクラトスさんに向き直る。
ごめんねリフィルさん。翻訳ならするので許して。
「はい、読み書きは一通り!」
「珍しいな。それほど熱心に学んだわりには、考古学にはさほど興味がないように見える」
「ナギサは古代文字を日常で使ってただけだもんね」
「うん。だから考古学自体にはそんな……」
「考古学はいいぞ!」
「ジーニアス! お姉さんなんとかして! そんなロイドの後ろに隠れないで!」
「ごめんナギサ、ムリ! 大人しくなるのを待つしかないんだ」
すぐに食いついてきたリフィルさんを何とかしようとジーニアスを呼ぶが、彼はとっくにロイドの後ろに逃げていた。
ずるい。声は申し訳なさそうだが、どこか楽しそうなのが気になる。さてはこの大暴れ状態のお姉さんをわたしに押し付けようとしているな?
「ふははははー!」
「先生、楽しそうだねぇ」
「コレット……わたし、君を心から尊敬するよ……」
「おいジーニアス、ナギサ! なんで俺を盾にするんだよ!」
一人だけ逃がさないと、わたしもロイドの後ろに隠れて進む。封印解放とやらの前とは思えないぐらいのんきだが、コレットも楽しそうだし、変に身構えるよりはいいと信じたい。
だからわたしは彼のつぶやきは聞こえなかった。
いや、本当に小さな声だったから、たぶんこんな状況じゃなかったとしても、聞くことはできなかったと思うけれど。
それでも聞こえていたら、何かが変わったのだろうかとも、少しだけ思う。
「古代文字を扱うのが日常……エルフの里のあの帯。そして、ナギサ……いや、まさかな」