「ここも魔科学で造られているな! 素晴らしい!」
最奥の祭壇にたどり着いても、リフィルさんはまだ興奮が冷めていない。それどころか最高潮だ。
まあ、元気でいいけど……なんて思っていれば、地響きが起こる。それは何かが近付いてくるような重いそれで、圧迫感すら感じられた。
「うわっ! なに? ……この感じ。マナが押し寄せてくる」
「これが試練とやらだろう。封印を守る守護者、クトゥグバだ」
「ナギサと先生は下がっててくださいね! 頑張ります!」
「早速いくぜ! 虎牙破斬!」
一軍メンバーの四人が一気に駆け出すのを見て、わたしとリフィルさんは後ろへ下がる。さすがに封印の守護者とやらが現れれば、リフィルさんも趣味は置いて真剣モードだ。
これはあくまで神子であるコレットへの試練。なので、わたしたちも絶対に戦わないといけないわけではない。目の前で繰り広げられる戦いに何もできないのは歯痒い気持ちもあるけれど、帰りだって大事だ。わたしたちの役目は、ここで戦って疲弊したみんなを無事に出口まで守ることなのだから。
「アクアエッジ! 弱点めっけ!」
「えいっピコハン!」
「魔神剣!」
「レイトラスト!」
炎を纏った封印の守護者は、炎の魔術だけではなく全身の針をも飛ばしてくる。離れているわたしからはよく見えるが、戦ってる彼らは距離を掴むだけでも一苦労だろう。
ああ、構いたい。声を出したい。邪魔になっちゃうだろうからできないけど。
「たあっ! 魔神剣、散沙雨!」
それでも攻撃を繰り返していれば、やがて守護者は力尽きて倒れ伏す。そのまま燃えるように姿を消していくクトゥグバの姿に、わたしも先生もほっと息をついた。
すかさず治癒術をかけてもらってから、コレットは祭壇の前に跪く。
“再生の神子よ。祭壇に祈りを捧げよ。”
「大地を護り育む、大いなる女神マーテルよ。御身の力を、ここに!」
彼女の祈りに呼応して、祭壇にぼんやりと赤い影が浮かぶ。滲むように消えたそれは、いったい何だったのだろう。もしかして、あれが精霊なのだろうか。
答えの代わりに、天井から降りてきた光が、輝かんばかりの白い羽を散らしながら人の形に変わる。
コレットに似た綺麗な金の髪。背中に生えた真っ白な翼。それを見て、彼が神託を告げたという天使レミエルか、と息を飲んだ。確か、彼女の本当の父親である天使……なんて、村で誰かが言っていたけれど。髪の色くらいしか類似点が見つからないなあ、なんて、初めて見る天使の姿に動揺しているのか、そんなことを思った。
わたしたちは一歩後ろに下がって、神子の祈りをただ見つめる。
「我が娘コレットよ。見事な働きだった」
「ありがとうございます。お父……さま」
「封印を守護するものは倒れ、第一の封印は解かれた。ほどなくイフリートも目覚めよう。クルシスの名の下、そなたに天使の力を授けよう」
レミエルさまの言葉と同時に、幾筋もの光がコレットに吸い込まれていく。それが数瞬輝いたかと思うと、ふわりとコレットの背中にそれは現れた。
彼の天使とは違う、それ自体が光で出来たかのような柔らかな羽。
薄い桃色のそれは羽化したての蝶のようにも見えて、思わず口を開けた。
羽であるから、やはり飛べるのだろう。浮かんだ自分の体に、コレットも驚きながら天使を見上げる。
「天使への変化には苦しみが伴う。だがそれも一夜のこと。耐えるのだ」
「試練なのですね。わかりました」
「次の封印はここよりはるか東。海を隔てた先にある。かの地の祭壇で、祈りを捧げよ。……次の封印で待っている。再生の神子にして最愛の娘コレットよ」
告げることを告げて、レミエルさまは再び光へと溶けて消える。
その光すら消えるまでの僅かな時間、わたしたちを静寂が包んだ。
「……すごい……コレットに羽が生えた」
「うん。それにほら、しまえるんだよ」
やっと紡いだ言葉に、床に降り立ったコレットはにっこりと笑う。
どうやらその光の翼は出し入れが可能らしい。明滅するように出したりしまったりする羽に、隣でジーニアスが楽しそうに声をあげた。
「すご〜い! かっこい〜!」
「ほらほら〜、見て見て〜!」
「綺麗だね! なんかレミエルさまとは違って……こっちのが可愛いかも」
「お前ら、わかったからもうやめろって」
「は〜い」
次は海って言ってたし、船を借りられる場所を探すぞ、とロイドに言われて羽をしまう。
そうしてコレットとクラトスさんと入れ替えにわたしたちが一軍メンバーに入り、祭壇のある部屋から出ようとしたときだった。
突然、コレットががくりと膝から崩れ落ちるように倒れたのは。
「コレット!」
慌ててロイドが駆け寄ると、コレットの顔色は悪い。
唇も紫色に変わり、僅かに体が震えているのがわかる。
「へ……い、き」
「ちっとも平気じゃない。顔が真っ青だよ! ボクのせいだ……羽を出して、しまってってやりすぎたから……天使なのに羽で遊んだりしたから、ばちが当たったのかも……」
「バカなこと言ってないの! 早く医者に診せましょう……町に戻って、」
「いや、動かさない方がいい」
リフィルさんをクラトスさんが遮る。
そうしてなるべくゆっくりとコレットを抱き上げたかと思うと、遺跡の出口の方へと視線を向けた。
「天使への変化には苦痛を伴うと、先ほどレミエルが話していたではないか。ここに野営をはって、安静にしている方がいいだろう」
「でも、このままじゃ……」
「だい、じょぶ……ほんとに少し休めば平気だから……ごめんね」
「バーカ、謝るなよ」
「うん……ごめんね」
彼の言う通り、無理に動かすよりその方がいいかもしれない。そう判断して、とにかくここから出ようと決めたわたしたちに向けられたコレットの笑顔は、誰が見てもぎこちなかった。