海を越えた場所、というレミエル様の言葉を聞いて、わたしたちが次に目指すことになったのはシルヴァラント最大の町と呼ばれるパルマコスタだ。
大きく発展し人も多いその町に封印があるとは思っていないけれど、人が多いと言うことは情報も集まると言うことだ。マーテル教会の大聖堂もあり、かつて世界再生を成功させた神子の残した情報もこの町には残されているとのことで、まずはここを目指そう、ということになった。
パルマコスタに行くには、船に乗らないといけない。そしてこのあたりで船があるとすれば、海岸線にあるイズールドという小さな漁村くらいだろう。そしてそこへはオサ山道と呼ばれる場所を通らなければならない。
とまあ、実に面倒な順路が必要になるのだけれど、こればかりは仕方ない。船が気軽に出るようなご時世でもないし、多少の面倒は飲み込むべきだ。
一応、北周りで陸路を行く道もあるみたいだけれど。封印の場所についての情報がほとんどない現状を思うと、情報収集も兼ねてレミエル様の言葉通りに海を渡る方が安心だろう。
一晩経ってすっかり復調した様子のコレットも、その方がいい、と言っているし。最終的な決定権を持つ彼女が言うのだから、とにかくこのオサ山道を通るのは決定だ。
まだ食欲は戻り切っていないようだけれど、歩く様子を見る限り心配はなさそうで安心しながら、わたしたちは山道を登る。
「待て」
最初の坂道に差し掛かったとき、若い女性の声がした。
珍しい。巡礼者というやつだろうか。素直にそちらを見れば、少し高いそこに、彼女は立っていた。
「……なんだ?」
「ロイドのお友達?」
「さあ?」
あ、と思う。
遠くから見てもスタイルがいいとわかる彼女は、薄紫の着物のような服を着ていた。
なんだか懐かしい。わたし、和服をRPGっぽくアレンジした絵で、ああいう服を着ているキャラクターのこと、たくさん見たことある。髪の色も黒いし、すごく親近感。
もしかして、わたしが知らないだけで、この世界にも和風な文化を持つ村とかあったりするんだろうか。
「この中に、マナの神子はいるか」
「……何かしら」
「警戒を怠るな」
「あ、それ私です」
はい、とコレットが手を上げる。
今すぐ隣で先生とクラトスさんが警戒しろって言ったばかりなのに。
彼女のこういうのんびりとしたところは可愛い魅力的な部分だとは思うけれど、もう少し警戒心を持ってほしい。神子って、命も狙われているわけだし。
思わずがっくりとうなだれてしまっていると、着物の女は軽やかに降りてくる。
そうして彼女はぴっと懐から札を取り出すと、勢い良くコレットに向かって駆け出した。
「……覚悟!」
「っコレット!」
敵だ、と判断してすぐに彼女の前に出る。
ロイドも駆け寄ってくるのが見えたから、とにかく最初の一撃を防ぐことに集中していいだろうと武器を取り出す。
だが、たぶん、それがいけなかった。
わたしの武器である帯を取り出す時は、ある程度の範囲を囲むように広がる。ちょっと面倒だけれど、初手から近距離に攻撃できるので、結構奇襲に対応しやすかったりする。だから今回もそう。守ろうとしたコレットの近くに、帯は広がった。
そして広がった帯を避けようとして、コレットは足をもつれさせた。
ガチャンと音がする。
彼女の足下にあった地面が無くなる。
「……あ」
呆然とした声を残して、暗殺者だと思われる女性はそのまま穴の中へ落ちて行った。
慌ててコレットを見ると、転んだ拍子にそこにあったレバーを倒してしまったらしい。それがきっかけに穴が開いたのだと判断して、コレットは本当に申し訳なさそうに暗くて底の見えない穴に駆け寄った。
「ああ〜、ど、どうしよう。やっちゃった……」
「気にすることはないわ。ここで相手が落ちなければ、あなたが殺されていたのかもしれないのだから」
「だけど……」
「まあ、確かにちょっと可哀想ではあったけど……」
「死んじゃってたりしてないかな」
「仮に、あの人の体重が45kgだとしてこの穴を……10mだとすると、重力加速度を9.8だと計算しても、死ぬような衝撃じゃないよ」
「じゅーりょくかそくどぉ? よくわかんねえけど、生きてるんだな」
「たぶんね」
コレットを慰めるために開催されるジーニアス先生による物理の時間の内容を、彼女達がきちんと理解できたのかは微妙なところである。でも、彼が言うのならとにかく生きていることは間違いないだろう、とすぐに安心したあたり、彼らの間にある信頼関係は相変わらず素敵なものだ。
かくいうわたしも、怪我はしているだろうけれど死ぬほどじゃないならよかった、と安心しているのだから、天才少年の説明はさすがである。せっかく懐かしい気配がする人に会えたんだもん。どうにもコレットの命を狙っているようだったけれど、できれば今度はお話してみたいな。
「しかしまー、運の悪い奴だなー。落とし穴の真上にいたなんてよ」
「落とし穴ではなくてよ。山道管理用の隠し通路ね」
「……そろそろ行くぞ」
「あの女の正体を突き止めなくていいのかよ」
「どうせまた向こうから来るだろう。ここは狭いし足場も悪い。場所を移した方が賢明だ」
クラトスさんの説明を聞いて、冷静に辺りを見回してみる。
確かに、ここの道はちょっと狭い。三人くらい横に広がれる程度の幅はあるけれど、ここで剣を振るうのは危なっかしい。
わたしたちも穴に落ちてしまうかもしれないし、戦闘は避けるべきだろう。
「クラトスさんの言うとおりだね。せめてもう少し広い場所に行こうか。……まあ、とっとと出て行くのが一番なんだけど」
わたしは彼女と話をしてみたいけれど、わざわざ再会する必要もない。
とにかく今は目的地へと足を進めるべきだ。まだちらちらと穴の方を見ているコレットの手を引いて、わたしたちは再び歩き出した。