27-2

「ま、待てぇ!」

穴の中に消えたあの暗殺者が再び現れたのは、山道の出口付近にあるそこそこ広い場所に出たと思った時だった。
坑道へ続くのだろう脇道を塞いでいた扉をぶち破るようにして現れた彼女は、泥だらけではあったけれど、確かに死んではいないし大怪我もしてないようである。声には疲れも滲んでいるあたり、相当苦労してここまできたのだろうことは察せられたけれど、それ以上に本当にここで追いついてきた、という感心の方が強くて、思わずわたしとロイドは軽く拍手をしてしまった。

「すげー、追いついてきた」
「ああ、良かった!」
「う、動くな!」

思わず駆け寄ろうとしたコレットを、わたしたちではなく彼女が牽制する。
この「動くな」はこのまま殺してやるという意味ではない。変に何かに触れるな、という意味だろうことは、明らかにうろたえた様子ですぐにわかった。
うん、また何が起こるかわからないもんね。なんだか親しみやすい暗殺者である。

「……賢明な判断ね」
「……さっきは油断したが、今度はそうはいかない。覚悟!」

一度深呼吸をして、仕切り直し。
今度こそ、と飛び出してきた暗殺者に、コレットと護衛役でクラトスさんを後ろに待機させた状態でわたしたちが突っ込んでいく。
彼女は複数枚の札をその場に展開させると、そのうちの一枚から紅い鳥のような魔物を出現させた。

「式神・壱、紅風!」
「わ、わわっ?」
「隙だらけだよ! 炸力符!」
「ぶふっ!」

目の前に札が散って、視界と行動とを制限される。
札の威力自体は低いけれど、単純に邪魔だ。式神とやらの鳥もやたらと強くて戦いにくい。

「援護します! バリアー!」
「この札、邪魔! 旋幻舞!」

勢い良く回転することで札を振り切って、そのまま強く帯で叩きつける。
そこから逃げようとした暗殺者の足下を、ジーニアスの氷が遮ってもろに当たった。

「アイシクル!」
「くそっ! うああっ!」

悲鳴を上げて暗殺者が吹っ飛ぶ。紅い鳥もやがて形を維持できなくなり、数枚の紙切れになって散った。
彼女は悔しそうに歯噛みすると、地面に何かを叩き付けて煙幕をはった。

「くっ……次は必ずお前たちを殺す!」
「待て!」

煙幕の中をロイドが腕を伸ばすが、彼女を捕らえることは出来なかったらしい。煙が晴れた後、そこにはロイドがいるだけで暗殺者の姿はどこにもなかった。
……もしかして、彼女は忍者なのかもしれない。なんて。この世界に忍者という概念はあるのだろうか。

「なんだって俺たちが狙われるんだ?」
「……いつの世にも、救いを拒否する者はいる」
「ディザイアンの一員なのかも」
「さあな。いずれにせよ、我々は常に狙われている。それだけのことだ」
「あの服……」
「先生?」
「いえ、なんでもなくてよ」

ぼうっとしていたリフィルさんは、珍しい服、とでも思ったのかな。この世界では着物なんてないし、みんなからすればかなり変わった服に映っただろう。
あ、でもロイドとクラトスさんあたりなら、袴とかちょっと似合うかも。我が国の伝統衣装ですって着せてみたいけれど、わたしじゃ用意なんてもちろんできないし……あ、そういえば彼女の話を聞いてみたかったんだけど、そんな暇なかったな。

「あ、この奥入れそうだな」

ふと、暗殺者がぶち破った扉を覗き込みながらロイドが言う。
なんとなく言った、というより、明らかに好奇心の色を滲ませた声色に、コレットを除く全員がため息を吐いた。

「……探検、したいんだね?」
「……だめ、か? やっぱり」

ちらりとリフィルさんを見る。
彼女はコレットを見て、それからやれやれと肩を竦めた。

「本当、仕方のない子ね」
「いいってさ」
「へへ、さんきゅー!」