「ようこそ旅の方! 我々はマーテルさまの教えのもと、旅人を歓迎します」
無事にワインを渡したあと、わたしたちは予定通り総督府を訪れていた。
教会の人曰わく、ここに再生の書と呼ばれる世界再生の導師スピリチュアの教典があるのは間違いないらしい。
それを見せてもらおうと訪れれば、補佐官ニールとドア総督、そしてその娘のキリアちゃんがそう出迎えてくれた。
「旅する者に、マーテルさまの慈悲を。ところであなた方はどちらから? やはりマーテルさまのために旅業を?」
「あ、俺たちはイセリアから来ました。世界再生の旅をしてるんです」
「世界再生……?」
「ここにいるコレットはマナの神子なんです。ほら、救いの塔も現れたでしょ」
「……そなたが神子だと?」
「あ、一応そゆことになってるみたいです」
一応って、と言いたくなるが黙っておく。
変に仰々しい神子なんかより、コレットの方が親しみやすくていいだろう。……いや、神子はしっかりしてないと不安か。封印の地などではとても神々しい神子としての姿と振舞いを見せてくれる彼女だけれど、そうでない場所では、どうにものんびりとした性格の方が表立ってしまう。
ドア総督たちも訝しむように見ているのがわかって、なかなか難しい。
「……ドア総督」
「うむ。神子さまはつい先程、我らのもとにお越しくださったわ! この恥知らずめ! 神子さまの名を語る不届き者! 即刻捕らえ、教会に引き渡せ!」
「は、はあ?」
総督の声に、すぐに兵士たちが取り囲んでくる。素早く統率のとれた動きにちょっと感動するが、そんな状況じゃない。どうしてこちらが悪者みたいな扱いになっているのだ。
コレットもびっくりして、その場で転んでしまう。その拍子に飛び出してしまった羽に、キリアちゃんが歓声を上げた。
「うわぁ! お父さま、ご覧になりました? あの方、羽が生えました! まるで天使さまみたい! きれい〜!」
「ま、待て! みんな武器を納めよ! この方は間違いなく神子さまだ!」
コレットの背中の羽を見て、彼らは慌てて武器をしまうと、そのまま礼をした。
よかった、このまま捕らえられることはないらしい。誤解が解けたようでほっとするけれど、その場で深々と頭を下げる総督たちに、けれど嫌な予感は消えない。
「あなたさまの背中に見えたものは、まぎれもなく天使の翼! 我らが無礼をお許しください」
「あの、どうかお顔を上げてください。ええっと……別にいいんです。みんなにもよく神子じゃないみたいって言われるし」
「すると……再生の書を渡した神子は偽物だったのか……」
「……ちょっと待て。そういやさっきも神子が来たとか言ってたな。どういうことなんだ?」
ああやっぱり。わたしたちを偽物だって、すぐに判断したと言うことは、そういうことだよね。
聞こえてきた言葉を問い詰めるロイドに、総督は力なくうなだれた。
「再生の書は導師スピリチュアの旅の記録です。世界再生について具体的に記されている唯一の資料で、パルマコスタの総督が代々受け継いできた家宝です」
「その貴重な資料をどこの馬の骨ともわからない神子とやらに渡してしまったということね……呆れた」
「神子さまたちがこちらに向かったという情報を聞いていたので、うっかり……」
「ばっかじゃないの! 困ったなー、信じらんないよ。あんたたち、何のためにその目がついてるの? それって飾り? これだから人間は……あいたっ!」
好き勝手に言うジーニアスの頭を、リフィルさんが叩く。さすがに言いすぎなので、これは仕方ない。
家宝として受け継いできたなら、情報を外に漏らさないためにも内容に関するメモなどはとっていないだろう。……せめて内容を少しでいいから覚えてくれてないのかな。
「内容は覚えていないんですか?」
「何しろ天使言語で書かれているので、教会の人間でないと読めないのだ」
「申し訳ありません。神子さま」
深く頭を下げてくれるが、これ以上何が出来るわけでもないようだ。仕方なく総督府を後にして、どうしようかと顔を見合わせる。
別に再生の書がなくてもいいのだが、あって困るものでもない。そもそも偽物に持ち出されたというのは十分に問題だ。
それに、たぶん、その偽物はあのパルマコスタワインを弁償することになった人たちなのだろうな、と思う。なんかせっかくもらったものがどうこう、総督がどうこう言っていたし。なんとも罰当たりだけど、そういう人、どこの世界にでもいるものなんだな。
「偽物はたぶん、あの変な因縁をつけた人たちだよね? 確か……ハコネシア峠になんとか……って言ってなかったっけ」
「それだ! 今から追いかければ大丈夫か?」
それとも諦めるか? とロイドが問うと、すぐにリフィルさんが否定した。
「追いかけた方が良いでしょうね。レミエルの言葉だけで探すにはつらいものがあるもの」
「姉さんは再生の書自体に興味があるんだろ」
またジーニアスが叩かれる。リフィルさんは意外と手が早い。
とにかく追いかけるなら、早く追いかけた方がいいだろう。
「それなら、ハコネシア峠に急ごう。あいつらだってとっとと売り払いたいだろうから、追いつけなくなっちゃう」