「お母さんを助けてくれて本当にありがとう」
あの後広場でディザイアンを無事に追い返すことができたわたしたちは、ショコラさんとその母親、カカオさんを家まで送り届けていた。
マグニスもすぐに帰ってしまったから、戦闘自体は苦労しなかった。他の人にも怪我はなかったし、しきりにお礼を言うショコラさんたちにも無事だ。
目的を達成できた、と胸を張っていいだろう。よかった。本当によかった。
「お母さんまで殺されていたら、私、どうしたらいいのか……」
「お母さんまでって……」
「主人はドア総督の義勇兵に参加してディザイアンと戦い、戦死しました。私の母も牧場へ連行されて……」
「うちの店は元々おばあちゃんが始めたの。だからおばあちゃんが帰ってきた時のためにも、この店を守らなきゃ。マーテル教会の旅行代理店で働いてるのだって道具屋を維持するためで、別にマーテルさまを信じてるわけじゃないのよ」
「ショコラ、なんてことを」
ほっとしながら聞いている話の中で、神子を前に堂々と神様を信じていないと発言する娘に、慌ててカカオさんが諫める。
だが勇敢すぎる彼女は、それくらいでは止まらない。むしろ自分の言葉も、この状況では不敬であることも全部理解したうえで、それでも自分の気持ちに正直に言葉を続けた。
「わかってる。でもマーテルさまはお父さんもおばあちゃんも守ってくれなかった。今だってお母さんを守ってくれたのは神子さまとお供の方だもの。私たちが苦しんでる時に眠ってる神様なんてあてにならないわ」
まあ、確かに。神様というのは、直接何かをしてくれるわけではない。彼らはいつだって見守っているだけで、実際に頑張らなきゃいけないのは今を生きる人たちだ。特にマーテル教の場合「女神マーテルさまが眠っているから世界が衰退している」なんて一説があるくらいだから、そう思う人もいるだろう。
すごいな、宗教を信じるかどうかって人それぞれの自由だから悪いことではないけれど、コレットというマーテル教の神子の前でも、堂々とその気持ちを言葉にできるのだから、彼女は本当にすごい。
隣でハラハラしているカカオさんの気持ちもわかるけれど、これだけ素直に自分の気持ちを伝えられる強さは、少し見習いたいと思ってしまう。
でもコレットは女神マーテルが遣わした天使の子、世界を救う神子だから。たぶん、その言葉をすんなり許容することはできない。かといって、押し付けることも出来ない性格をしているから。
彼女は結局、あいまいに笑って。けれど、でもね、と。コレットはそっと、言葉を選びながらも自分の言葉を口にした。
「そっか……そうだね。でもやっぱり、神様はいると思うよ」
「そうかしら」
「うん。いると思うよ。あなたにも、私にも」
「神子さまがそう言うなら……一応信じてみる」
うなずいてくれた彼女に、コレットはにっこりと笑う。全部を信じなくても、それだけでいい。そう柔らかく笑う彼女につられて思わず、といったふうに微笑み返してから、ショコラさんは立ち上がった。
「さあ、そろそろ行かないと次のアスカード旅業が出発する時刻なの」
「こんなことがあった後も、旅行に行く奴なんかいるのかよ」
「こんなことがあったからこそ、熱心な信者でなくとも救いを求めて旅に出るのだろう」
この場所にいても苦しいのなら、どこか別の場所にこそ幸福があるのかもしれない。
逃避的な考えだが、たぶん、宗教なんてみんなそんなものだ。そうして歩いて、旅をして、その先でいろんなものを見て。何か心が変わることがあるなら、少しでもその苦しさから離れられるなら。それは、十分に救いだ。
そんな人たちもいるのだと諭すクラトスさんの言葉にうなずいて、ショコラさんはまた明るく笑った。
「そういうこと。それじゃあ、本当にありがとう!」