巡礼ではないのだから、すべての救いの小屋に訪れる必要はない。他の旅業者への対応で忙しいところに神子が訪れては余計な気を利かせてしまって申し訳ないから、必要に迫られない限りは立ち寄らない、というのが、例のスピリチュア像がある救いの小屋を通り過ぎた理由だった。
まあ、先に来ていたところで、その時はスピリチュア像のことなんて何も思っていなかったから、二度足になるのは避けられなかっただろうから、そんなことを考えたって意味がない。
スピリチュア像、無事に譲ってもらえるといいなあ、と考えながら訪れた救いの小屋は、トリエットの近くでお世話になった場所とさして変わらなく見えた。場所によって設備の整い方に違いがある、とか、そういうことはないだろう。どことなく旅業の人が多いのは、ショコラさんが副業をしている旅業に出た人たちが立ち寄っているからなのかもしれない。
旅に出るくらいなのだから、みんな熱心な信者だ。
ほら、今もスピリチュア像に熱心に祈ってる人がいて……
「あれ……あの人」
思わず呟いてから、よーくその後ろ姿を見つめる。もはや懐かしい和服に、大きなリボンのような帯。懐かしさと親近感を覚えるその背中は、オサ山道で出会ったあの暗殺者だ。
彼女は熱心に祈っているようで、わたしの視線には気付かない。暗殺者が視線に鈍くていいのかな、と思わないでもないけれど、まあ、ここで騒ぎを起こされても困るのでいいか。
むしろこれはお近づきになるチャンスかも、と。思わず立ち止まったせいだろう。ロイドたちもわたしの視線に興味を持ったようで、どうしたんだ、とこちらに寄ってくる。
「どうしたナギサ……って、あいつ、オサ山道で俺たちを襲ってきたやつじゃねえか」
「しっ。何か言っていてよ」
ロイドが大きな声を出そうとしたのを制して、リフィルさんが耳を澄ませる。
お祈りの言葉だろうとは思う。けれどもしかしたら、何か彼女に対する情報があるのかもしれない。だって、神子を殺そうとするのに、神様にお祈りするなんて、ちょっと変だ。
いったい何を言っているのだろう、と興味が勝ってしまって、わたしたちはゆっくりと彼女に近付く。
「……の、みんなを救えるように、どうぞお助けください……」
「いい心がけじゃない。お祈りしてるよ」
ジーニアスが思わず呟いたことで、彼女はようやくわたしたちに気付いたらしい。
くるりとこちらを振り返って、少し遅れて反応する様子に思わず苦笑がもれる。
「……あ!」
「あ、じゃねえだろ。俺、ロイドっていうんだ」
「私はコレットです。よろしくお願いします、えーっと……殺し屋さん」
「よろしくお願いなんかされたくない! それにあたしの名前は殺し屋じゃない!」
「あ……ごめんなさい」
突っ込むところそこなんだ。
流れるように始まった自己紹介の方を先に突っ込むべきだと思うのだけど、どうにも彼女もずれている気がする。きっと根は悪い子じゃないんだろうな。もしかしたら本当に仲良くなれる可能性があるかもしれない。
「あたしは、しいなだ。藤林しいな! あたしはお前を殺そうとしてるんだから、親しげに話しかけてくるなよ!」
「えっ自己紹介しちゃうの?」
っていうか、やっぱり日本人みたいな名前だ!
先日の戦闘での身のこなしからして、わたしと同じ異世界から来た……という感じではなさそうだけれど。やっぱり、日本に近い文化を持った村とか隠れ里がこの世界には存在しているのかもしれない。
もしかして、忍者の里だったりして。
これまでも感じていた親近感がさらに深まるのを感じて、その喜びのままに、わたしはそれじゃあ、と声をかけた。
「わたし、天織なぎさです。わたしは神子じゃないし、友達になっても構わないよね?」
「そ、そういう話じゃないだろ!」
「そっか。神子じゃなかったらお友達になれるんだよね。なら、だいじょぶ。きっと話し合えば私たちも分かり合えますよ〜」
「なんでだよ! わかるわけないだろ。今だって、お前をちゃんと殺せるように祈ってたんだ」
「祈りは心を豊かにしますね、しいなさん」
「は。お前……」
頑張ってつっこんでいたけれど、コレットの言葉で完全に気が抜けてしまったらしい。
しいなちゃんは腹立たしそうに拳を握った後、何かを強く地面に叩きつけた。
「あああ、もういいっ! 次こそ覚えていろ!」
ぼんっと音を立てて、彼女の姿が白煙に紛れて消える。またしても煙幕だ。やっぱり忍者みたい、と再び心が震えるけれど、これ以上彼女を追うことはできないだろう。
次も戦闘なしでお話しできたらいいな。
残念そうなコレットの背中を押して、とにかく目的であるスピリチュア像を譲って貰おうと祭司の人を探した。