32-1

「みなさん! 助けに来てくれたんですか?」

牧場の攻略を進める過程で救出できた収容されている人たちの脱出については、一緒に来ていたニールさんに任せることにして、わたしたちは奥へと向かう。逃げる時間を稼ぐためにも、収容されている人の中にいなかったショコラさんを探すためにも、足を止めることはできなかった。
やがてディザイアンに連行されている途中だったショコラさんを見つけて、素早く周りのディザイアンを気絶させる。コレットの姿を見た彼女は嬉しそうに笑った。

「うん。怪我はない? だいじょぶ?」
「はい。大丈夫です。神子さま、みなさん、ありがとうございます」
「いや、そんな……」
「気を緩めるな。我々はまだマグニスを放置したままなのだからな」
「今、総督府のニールが、収容された人たちを連れて脱出しています。私たちは管制室をおさえて、彼らを安全に脱出させないと」
「ドア総督がついに動き出したんですね!」
「あ、ああ……まあ……」

まさかドア総督がディザイアンと繋がってあなたを誘拐させました、とは言えず、ロイドは言葉をにごす。
幸いにも高揚しているらしい彼女はそれを気にすることはなく、代わりに毅然とした態度で通路の奥を指さした。

「管制室かどうかはわからないけど、きらきら光る壁や魔法みたいなのがたくさんある部屋がありました。ご案内します」
「そうね……少々危険だけど、お願いできて?」
「はい、こちらです」

ショコラさんに先導されてワープ装置をくぐる。
ワープする瞬間の変な浮遊感は未だに慣れない。というか、当たり前にワープ装置だなんてものがあるのは、どういう技術力なのだろう。以前のトリエットで、彼らがわたしの世界よりも科学技術が発展しているようだとは思ったけれど、もう近未来というよりSFの世界だ。
ということは、もしかしたら今のこの状況もカメラで見られているかもしれないな、と思いつつ、どうか無事に脱出してくれるよう祈りながら歩みを止めずにいれば、やがてワープ装置の先へと出る。
出た場所は、中央に巨大な装置というか、何かの発射口のようなものがある広い部屋だった。壁際にはいくつもの操作パネルとモニターが設置されていて、ちょっと毛色は違う気がするけれど、やっぱりトリエットの施設と似ている。

「ここが……」
「ようやく到着か。天から見放された神子と豚どもが」

落ちてきた声に、自然と中央の機械へ視線が惹きつけられた。
かすかな駆動音と共に、大きな椅子が降りてくる。そこに座っているのは予想通り、マグニスだ。
にまりと嗤う彼をロイドは睨みあげ、クラトスさんは眉をひそめた。

「天から……見放されただと?」
「天から見放されたのはマグニス、お前だ! 叩きのめしてやるぜ」

威勢良く言ったのはいいが、直後に部屋に用意されていたいくつかのワープ装置から次々にディザイアンが出て来る。
なんとかショコラさんはわたしの後ろに隠すように庇ったけれど、あっという間に囲まれてしまえば意味はない。こうも包囲されてしまうと、それを無理やり押しのけて出て行こうとは思えなくなってしまった。

「囲まれました〜」
「言わなくてもわかってるよ!」
「ガハハハ! 所詮は豚の浅知恵よ。お前らのしてることは筒抜けなんだよ。劣悪種たちが逃げ出そうとしてるのもな」

機械音をたててモニターが降りてくる。そこには脱出しようと人々を連れ歩くニールさんさんの姿が映っていた。
やっぱりカメラがあったらしい。ここに来るまでに天井とかも確認したけど、それらしいものはなかったのに。カメラすら、わたしが知るものよりずっと高度な技術を使っていて、監視カメラそそれと見分けることは、だいぶ難しいようだ。

「なんであんなところにニールたちが入ってるの?」
「あれは投影機。魔科学の産物だ」
「遠くの物や人を映し出すのよ。これに私たちも映っていたのね」

シルヴァラントに似つかわしくないほど発達した科学を見せつけてマグニスが上機嫌に笑うと、映し出された通路を塞ぐように扉が降りる。
あっという間にニールさんたちのいる通路は封鎖され、彼らは完全に閉じ込められてしまった。

「ああ! 閉じ込められちゃったよ!」
「無駄無駄無駄! お前らの行動は無意味なんだよ」
「無意味なんかじゃない! 今からお前を倒せば、みんなを助けられるじゃないか!」
「よくそんなことが言えるなぁ。イセリアでの災厄は、お前の無意味な行動のせいで起こったんだろうが」

ぐ、とロイドが言葉を詰まらせる。
村が襲われる原因を作ってしまったことに変わりはなくて、わたしもジーニアスもさっと顔をそむけた。

「……それは……」
「そうだ、投影機に映ってる連中で、あの時の再現をしてやろうか? 培養体に埋め込んだエクスフィアを暴走させて、化け物に変えてよぉ!」

ヒュっと息を飲む。
恐怖だけじゃない。その言葉に、理解してしまったからだ。どうしてマーブルさんがあんな怪物の姿になってわたしたちの前に現れたのか、その仕組みを今の言葉で理解させられてしまったから、だ。
エクスフィアを、暴走させて。彼はそう言った。つまり彼女があんな姿になってしまったのは、彼女に埋め込まれていたエクスフィアが暴走させられたからだ。ロイドもダイクさんも言っていた。エクスフィアはそのままでは体に毒だと。それを抑えるための要の紋はおろか、抑制鉱石すら、牧場の人たちは着けていない。
……とんでもない、首輪だ。みんな、ここに来た瞬間に、エクスフィアという爆弾のようなものを埋め込まれる。いつでも、怪物にさせられてしまう。
その光景を思い出して、思わず自分の胸元にあるものをぎゅうっと握った横で、同じように思い出したのだろうロイドが悲鳴のような声を上げた。

「や、やめろ!」
「遠慮するなよ。お前が殺したあのババア……マーブルのようにしてやるよ! ガーハハハ!」
「……マーブル? マーブルってまさか……」

ぽつりと声がこぼれる。
振り返ると、ショコラさんが呆然とした表情でロイドを見ていた。
それを見て、マグニスは機嫌良さそうに、作ったような声で喋る。

「そうなんだぜぇ、ショコラよぉ。お前の祖母マーブルは、イセリアの牧場に送られてロイドに殺されたんだ。無惨な最期だったらしいぜ」

はっと思い出す。
ショコラさんが言っていたお祖母さんのこと。お祖母さんのために道具屋を守るのだと言っていたこと。
そして……マグニスが告げた彼女の祖母の名前を聞いて、青ざめる。
だって、絶対に忘れられない名前だ。わたしたちが、殺してしまった、優しい人と同じ名前だ。きっと年も同じくらい。そのことに、彼女がずっと慕って、帰りを待っていた祖母が誰なのかわかって、慌ててジーニアスが彼女の前に飛び出した。

「待って! 違うんだ! ロイドはマーブルさんを助けようとしてくれたんだ! だけど、ディザイアンがマーブルさんを化け物に変えて……」
「ロイドが殺した」
「う……そ……」
「ショコラさん!」

後退りをする彼女の背後にディザイアンの姿を見て、慌てて腕を伸ばす。
だがそれは、他ならぬショコラさん自身によってたたき落とされた。

「放っておいて! おばあちゃんの仇になんて頼らない。それならここで死んだ方がましよ!」
「死ぬなんて言っちゃダメだよ! どんな状況だって、死ぬより生きてる方がいいよ、絶対!」
「私のことはドアさまが助けてくれるわ。だから放っておいて!」
「ガハハハ! そうか、ドアにか。まあいい、連れていけ!」

ショコラさんの言葉にマグニスの笑い声が響く。
わたしは、ショコラさんを引き止める言葉が浮かばなかった。手が届くはずだったのに、何も掴めなかった。
だから彼女はディザイアンに拘束されて、ワープ装置の向こうへと消えてしまった。