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「なんかさ……俺って。やっぱりまだまだガキだよな」

体調が落ち着いたコレットが散歩に行くのを見送って、焚火を囲んでいたロイドがぽつりと呟いた。
いつもどこからくるのかわからない自信に満ちていたロイドの呟きに、思わず彼を凝視してしまう。

「……珍しい。どうしたのさ、急に」
「だってさ。コレットが苦しんでても何も出来ないだろ。どうしたらいいかも、全然わかんねえし」
「……わかる方が、凄いと思うけど」

旅に出たことで、ロイドもロイドなりに自分の無力感や悩みというものにぶち当たったようだ。
彼はとてもまっすぐで、優しい人だから。すぐ目の前で苦しんでいる人を放っておけなかった人だから。自分のすぐ隣。ずっと一緒にいたコレットが苦しんでいるのに何もできないことが、悔しくてたまらないのだろう。きっと、それだけであの子は嬉しいと笑ってくれるのだろうけれど。それだけじゃ、こちらの気持ちは収まらない。ロイドの悩みは解決したりしない。
そうだよね、ロイドがいくら強い人でも、悩んだり、落ち込んだりするよね。わかっていたはずだけれど、改めてそれを見て、何故だかびっくりしてしまう。けれどそんなことを言って茶化せるような空気でもないから、せめてわたしに出来ることをと思って、静かに彼の話を聞く。

「それに、もう出会ったときの先生と同じ年なんだぜ? なのに、そのときのジーニアスより頭悪いし」
「あら、もうそんなになるのね」
「懐かしいなあ。ボク、初めてロイドに会ったときに思ったんだよね。うわ、この村レベル低いって。ロイドだけだったけど」
「わ、悪かったな! 嫌なやつ!」

一緒に焚火を囲んでいたジーニアスの髪の毛を、ぐしゃぐしゃと乱暴にかき混ぜる。
いつも通り仲良くじゃれあい始めた二人に、リフィルさんは優しく笑みを浮かべた。

「ロイド、あなたはちゃんと成長していてよ。自分が子供だと客観的に見れるようになれたんだもの。子供ほど、自分は大人だと思っているものよ」

そう諭す先生にわたしもうなずく。
自分のことにいっぱいいっぱいで、周りを見ることも出来ないのに、それでも自分は大人だと言い張る。そっちの方がずっと子供で厄介だ。
自分の未熟さを知らないうちは、大人になんてなれないだろう……自分の未熟さしか知らない大人もどうかと思うけど。でも、そうやって自分を知ることは、悪いことのはずがない。

「そう……なのかな」
「……己の弱さ、未熟さに気付くことができた。それだけでも、お前は十分に成長したと言えるだろう」
「クラトス。……そっか。ありがとな、みんな。へへ、やっぱりみんながいると、それだけで強くなれる気がするぜ」

そっとクラトスさんも言葉を添えれば、ロイドは照れくさそうに笑う。
最初のうちは、クラトスさんが何か言えば、反抗期の子供よろしくなんでも面白くなさそうにしていたのに。剣の稽古をしてもらいだしてから、彼はすっかりクラトスさんとも打ち解けたようだ。
彼の言葉も、他のみんなの言葉も。一つ一つ、全部受け止めて。大事そうに抱えて、じゃあこれからも頑張るしかないな、と意気込む彼に、やっぱりすごいなあ、と目を細めた。

「ロイドは凄いなあ。わたしだって、そんな風に自分をしっかり見たりなんて出来ないのに」
「そうね……大人になると、自分の未熟さをわかっていても、見直すだけの時間すら惜しくなるのだもの」
「そうなのか?」
「そうなの!」

きっと自分は間違えたのかも、と思ったって、今更変えることなんてなかなか出来ることではない。だって、今までそうやって生きてきた自分を、全部否定することになってしまいそうで恐ろしいのだ。未熟だと認めて自分を見直すために立ち止まること自体が、もう自分の何もかもを否定するみたいで……とても多くの時間を無駄にしたみたいで、出来なくなってしまう。
向き合うことも、立ち止まることも。成長することも、全部。心に余裕があって、自分を支えてくれる誰かがいないと、きっと上手に出来やしないのだ。なんて。ちょっと偉そうに考えてみる。わたしだって、まだまだできないこと、難しいこと、たくさんあるのにね。

「それにしても、ナギサもまた違った意味で凄いわ。あなたはエクスフィアもつけていない、ただの人間なのに」
「ほとんど二軍メンバーですけどね」
「それでも十分よ。もともと戦闘に関する生き方をしていたわけでもないようだし。時代性や世界性の違いなのか、それほどそのエルフの織物だという帯に何かあるのか……興味深い」
「興味持たないでください。ほら、リフィルさんも寝ましょう」

遺跡を前にした時のような目をしてきたので、慌ててぽんぽんと背中を叩く。
トリエットで絡まれた時に誓ったのだ。もうその状態のリフィルさんにはなるべく近付かないって。いやほんと、怖いから。対象になるのはごめんだ。
はいはい寝ましょうね、と横になるように促せば、彼女は少しだけ頬を赤らめた。

「……子供扱いされるなんて、随分と久しぶりだわ」
「嫌でした?」
「そういうわけでは……ないけれど」
「なんなら、わたしの国の昔話という寝物語でも語ってあげますけど」
「それは気になるな。ぜひ聞かせてもらおう」
「急に元気になった。じゃあ、一番ポピュラーなやつから行こうかな」

寝る気配が遠のいた気がしたけど、まあ、いいや。
じゃあお膝に……と言おうとして、慌てて止めた。違う違う、マーテルさんにいつも膝枕しながら語っていたから同じことをしようとしてしまった。今はわたしの膝なんて使うのはコレットくらいだ。危ない。

「なに? ナギサの寝物語か?」
「ええ、聞かせてもらおうと思って」
「俺も聞く! ナギサがうちに来てしばらくくらいしか聞かせてくれなかったしな!」
「……せっかくだから、ボクも聞こうかな」

嬉しそうにロイドがそう言って、ジーニアスも照れくさそうにわたしの傍による。
あっという間にパーティの半分が聞く体制になっていて、なんだか今更恥ずかしくなってきた。

「な、なんでこんなに人が集まるんだ……いっそ精霊戦隊シンフォニアンエイトとかの方がいい?」
「何を言う! 貴様の世界に興味があるというのに、そこらの紙芝居を聞いてどうする!」
「ご、ごめんなさい」
「あ、そうだ。せっかくだからコレットにも聞かせようよ。聞いてるだけなら負担にならないだろうし、落ち着いて休めると思うしさ」
「それもそうだな。よし、呼んでくる!」

だっと駆け出したロイドがコレットを連れてきて、全員がわたしの周りで横になる。
いや、寝ずの番のクラトスさんは横になってないし、リフィルさんは爛々とした目を向けてくるから、寝そべる気配なんてないのだけど。
とにかく、わたしはいつかの日にマーテルさんたちにしてみせたように、日本の昔話を語り出す。

再生の神子ご一行は、今日もわりと平和だった。