36-1

「風の封印も無事終了っと……みんなお疲れ様」

祭壇からコレットが降りるのを見て、そう笑いかける。
あの後、石舞台に現れた魔物が残した石板から本物の風の封印の場所を特定し、訪れたバラクラフ王廟で、わたしたちは無事に封印を開放した。
あの魔物は古代バラクラフ王朝のなんとかかんとか……と説明をしてはもらったけれど、そこら辺は世界再生の旅自体にそこまで関係のあることじゃないので、割愛することにする。……決して、わたしがまったく理解できなかったとか、そういうわけじゃない。

「どうだ! 見てたか? 俺の戦いっぷり。ズバッといってガーッとなって……」
「ふ……その程度で浮かれているようでは、先が知れてるな」
「な……なんだよ。文句あるのかよ」
「せいぜいこれからも精進するのだな」
「ちぇっつまんねぇヤツ」
「やっぱりロイドは強いね」
「だろだろー! ひょっとして、俺って天才?」
「この才能が勉強にも向いていればねぇ……」
「ん? なんか言った?」

とにかく三つ目の封印を開放して、神子であるコレットはもちろん、ロイドも強くなってきたという手ごたえを感じられるようになったのだろう。
先日はまだまだ未熟だと落ち込んでいたけれど、その後もクラトスさんに稽古もつけてもらったり、いろんなことを経験して、彼なりに成長し続けているようだ。自慢げに、だが帰りも決して油断することなく笑みを浮かべる彼に、なんだかわたしまで誇らしくなってくる。
たぶん、クラトスさんも同じだ。彼は少々突き放すような言い方をするけれど、やっぱりずっと、ロイドのことを気にかけていた。きっとわたしよりロイドの成長を実感していることだろう。今も浮かれているようでしっかりと地に足がついていることをわかっていてるから、それ以上言わないのだろう。
二人も結構仲良くなったよなーと思いながら、壁から飛び出す針のトラップを避けて通る。

「にしても、ここは他と違って明らかに遺跡って感じだったよなー」
「そうだロイド! よいところに目を付けたな!」
「げっ! リフィル先生! 遺跡モードだったの?」
「変な名をつけるな。ここは王廟というだけあって、過去の王族の墓になっている。だから盗掘を防止するためのトラップがあるのだ」
「なんか飛び出してきて楽しそうですね〜」
「なんか、コミカルだよなぁ?」
「針に刺さって楽しいのか!」
「そんなことないです……」

いやあ、うん。本当に元気だ。
さっきまで本当に封印を開放する戦いをしていたのかな、と思うくらいに元気だ。

「三人は楽しそうだけど、ボクもう早くここ出たいんだけど……」
「まったくだ……」
「あ、あはは……そうだコレット、体調は平気? 辛くなってきたら、倒れる前に言ってね」
「うん。だいじょぶだよ。ありがとう」
「待て!」

さあもうすぐ出口だ、という辺りで聞き覚えのある女性の鋭い声がした。

「この声は……」
「嫌な予感」

わたしたちが振り返ると、奥の階段から駆け下りてくる、しいなちゃんの姿がそこにあった。
間違いなく呼び止めたのは彼女だろう。前回会った時はいろいろと有耶無耶になって別れたけれど、今回は戦う気満々のようだ。みんなもさりげなく自分の武器に手を添えるけれど、コレットは嬉しそうに笑って彼女の方へと一歩前へ出た。

「ようやくこの日が来た。この古代遺跡がそのまま貴様たちの墓標になる……」
「あなたも来てたんですね〜!」
「ち、近付くな! 動くな! ものに触るな!」

慌てて叫んだしいなちゃんは、オサ山道でのことを忘れられないようだ。
まあ、いきなり落とし穴に落とされた、なんて忘れたくても忘れられないし、あの中にいた魔物を振り払ってわたしたちに追い付いたのだから、かなり苦労したのだろう。想像すると思わず涙が出そうになる。

「……よっぽど酷い目にあったんだね……」
「せっかくお友達になれたのに、どうして戦わないといけないんですか?」
「誰があんたなんかと……まあいい、今度こそ死んでもらうよ!」

そう言って再び式神と共に突撃してきた彼女だが、もう戦闘パターンは覚えている。
それは向こうだって同じだろうが、それなら数の多いわたしたちの方がずっと有利だ。封印の守護者との戦いの後ではあるけれど、一軍と二軍で分かれていたから体力にも余裕がある。

「ライトニング! ロイド!」
「任せろ! 獣爪雷斬!」

その最初の余裕通り、雷を帯びた剣が振り下ろされて、式神はあっさりとただの紙切れにもどった。
しいなちゃんも再び膝をつけて、悔しそうに歯噛みする。

「くっ……何故、勝てない」
「正義と愛は必ず勝つ!」
「あのなー、あのアホみたいなドワーフの誓い引っ張り出してんじゃねーよ」

ジーニアスの言葉にロイドが呆れたとため息を吐いた。あのドワーフの誓い、コレットとジーニアスになかなか人気なんだよね。
でも、きっとこの場面においては、しいなちゃんの怒りに触れるものだったのだろう。彼女はダンッと強く床をこぶしで叩くと、ふざけるな、と低く唸った。

「……何が正義なもんか。お前たちが正義なもんか! お前たちが正義なら、あたしたちだって正義だ!」
「お前も一緒になって正義正義言うなっ! 恥ずかしい奴だな!」
「お前たちに何がわかる! この世界が再生された時、あたしの国は滅びるんだ!」

息巻くしいなちゃんに、全員が驚きを隠せずに彼女を見る。
その目は決して嘘を吐いているようには見えない。だからこそ理解出来なかった。
だって、世界が再生されたら、滅びる国がある、なんて。

「どういうこと? 私が世界を再生したら、みんな助かるんじゃないの?」
「……助かるさ。この世界はね!」
「待ちなさい! あなた何者なの? 他に仲間がいるのね?」

吐き捨てて逃げ出した彼女は、薄暗い王廟の中ではすぐに見失ってしまう。
見えなくなった背中を思いながら、わたしたちは首を傾げた。

「この世界? 世界にそれもこれもあるのかよ」

残された言葉を考えて、わたしも黙り込む。
世界、というのが一つではないことは、わたしが一番よくわかっている。だってわたしは、この世界ではないところから来た人間だ。
もしかして、彼女もそうなのだろうか? 彼女もわたしと同じで、別の世界の人間だったりする? でもそれにしては、この世界のことにも詳しい気がしたし、おかしなことが多い。少なくともわたしと同じ世界の出身ではないだろうけれど……どうして、この世界が救われると、彼女の国が滅びる事になるのだろう。
話が繋がるようで繋がらなくて首を傾げていると、隣でクラトスさんも小さく呟いた。

「あの娘……まさか……」
「クラトスさん、心当たりが?」
「いや……それよりここを出よう。もうすぐ神子の疾患も現れてくるだろう」

考えるのは外でも出来ると言ったクラトスさんに倣って、それもそうかと外に出る。
コレットが倒れたのは、それからすぐのことだった。