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アスカード人間牧場の中は、当然ではあったけれど、パルマコスタのそれと基本的には変わらないようだった。
前回は招き入れられた部分があったけれど、今回、正面突破をするのは難しい。それならばと、奪い取ったディザイアンの服を着てロイドを捕らえたと言って侵入する作戦を実行することとなったけれど、ディザイアンたちもちゃんと仲間内では仲良しなのかなんなのか。あっさりコンピューターのある場所まで侵入することができてしまって、少しだけ拍子抜けする。
まあ、人間牧場に乗り込もうなんて人、そんなホイホイいるとは思えないし、厳重に検査する必要なないのだけど。以前、トリエットから脱出する時も思ったけれど、彼らの警備は結構、その、ザル、だった。

ある程度進んだところで、素早く服を脱いだディザイアン役のリフィルさんとしいなを横目に、部屋の窓から見える施設内の景色に目を向ける。
相変わらず、収容した人たちに重労働を強いてまで何が行われているのかわからない牧場であったけれど……そこから見えるベルトコンベアに流れているものを見て、ようやくこの場所の目的が分かった気がする。
ゴウンゴウンと音を立てて運ばれているのは、大きな入れ物に入った小さな石。……エクスフィアだ。出荷前のようなそれを見て、リフィルさんもなるほど、とうなずいた。

「ここはエクスフィアの製造所なのね」
「……そのようだな」
「これが全部エクスフィアか。すげぇなぁ……」

エクスフィア。
その綺麗な宝石のような見た目に反して、とても恐ろしい力を持つ、謎の石。
身体能力を上げ、潜在能力を引き出す、増幅装置のような力を持つと同時に、要の紋もなしに装着すれば、暴走を引き起こすことで化け物のような姿に変えてしまう、恐ろしい石。
基本的にディザイアンだけが使用していると言うのも、ここで作っているから、と言われれば納得だ。
具体的にどうやって製造しているのかはわからないけれど、エクスフィアの製造に使う労働力にそれを埋め込んで、労働力の底上げに使って。逃げられないように首輪としても機能させて。脅迫するための材料にも使用して。そうして、完成したエクスフィアは自分たちの力として扱う。
無駄のない仕組みに、なんだか嫌気がした。

「……しっ。隣の部屋から声が聞こえる」

ふと、コレットがそうささやく。
それに倣って耳をすませてみるが何も聞こえない。ここの壁は分厚そうだし、隣の部屋の音なんて何も聞こえないと思うけれど。それはジーニアスたちも同じようだ。

「何も聞こえないけど……」
「いや……気を付けろ」

だがロイドだけが、コレットの言葉を受け止めて武器を構える。
そのことに少し緊張して扉を見ていれば、確かに彼女の忠告通り、扉が開いた。
まるで何かから逃げるように飛び出してきたのは三人で、そのうちの一人には見覚えがある。相手もわたしたちを見て、驚いたと眉を持ち上げた。

「ぬっ! お前たちは!」
「やべ、こいつらトリエットで会ったディザイアンだ!」
「まだ我々をディザイアンだと思っているのか」
「しかしボータさま、これは好機です。いかがなさいますか?」
「まて、クラトスがいる。ここは退こう」

はっきりとクラトスさんの名前を呼んで、ボータという名前の男は、武器を抜こうとした仲間をおさえた。
そういえば、前にトリエットでもクラトスさんを見ながら何か言っていたような気がする。ボータはクラトスさんを知っているのだろうか。

「知り合いなのか?」
「さあ? イセリアとトリエットで顔を合わせただけのはずだかな」
「ここはお互いのために退きましょうぞ」
「勝手にするがいい」

クラトスさんが言えば、ボータたちはこちらに構うことなくもう一つの扉に向かって走り出す。だがいざ扉の前に立ったところで、何かに警戒するように立ち止まった彼らに、ロイドが不思議そうに近付いた。
そのことに慌ててコレットが飛び出し、それを追ってクラトスさんもロイドの前に出た。
扉が開いて、三人もの魔術師が現れる。彼らが一斉に放った魔術はボータたちをすり抜け、ロイドたちへと放たれた。

「三人とも!」
「私ならだいじょぶ」
「それより後ろだ!」

どうやらクラトスさんが粋護陣で守ってくれたらしい。
それに安心しながら言われた通り、もう逃げ出したボータたちが出て行った扉に振り返る。その扉からゆっくりと入ってきたのは、細目の男だった。

「ほう、これは驚きました。ネズミと言うからてっきり、レネゲートのボーダかと思いましたが、手配書の劣悪種とは。今の魔法を食らって生きているとは、さすがと言っておきましょうか」
「お前は何者だ!」
「人の牧場に潜入しておいて、何を言うのかね」

ごもっともである。
緊迫した空気ではあるが、なんとか自分たちのペースに持ちこみたいという気持ちもあったのだろう。ジーニアスがわざとらしくロイドに話し掛ける。

「……いつもと逆だね、ロイド」
「お前なー! こんなときになー!」
「奴は五聖刃の一人……クヴァルだ」
「はは。さすがに私の名前はご存じですか……フォシテスの報告通りだ。確かにそのエクスフィアは、私が開発したエンジェルス計画のもののようですね!」

ロイドのエクスフィアを見つめて、クヴァルは言う。
それに無意識なのか、ロイドはさっと左手を彼の視線から隠した。
しかし、状況の悪さは変わらない。狭い室内ではあっさりと囲まれてしまう。
どうしよう。どうにかして扉までの道を開かなくては。そう思って視線を動かしていると、ぐっと隣でコレットがチャクラムを握って、素早くクヴァルに向かって投げつけた。
もちろん、彼はあっさりかわす。だがそれで十分だ。クヴァルがどいたことで、扉までの道が出来たのだ。

「ナイスだ、コレット!」

だっと走り出して、そのまま扉の向こうまで逃げ出した。
……そちらは牧場の奥になるから、状況はあまり変わらないのかもしれないことは、覚悟しながら。